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『日本国民のための愛国の教科書』将基面貴巳インタビュー

「国外脱出もしない」「政治的な発言もしない」日本人の歪んだ愛国心に、未来はあるのか?

文=斎藤岬(さいとう・みさき)

政治思想史研究者・将基面貴巳氏

 昨年刊行された『日本国民のための愛国の教科書』(百万年書房)という本がある。タイトルを読むと一見いわゆる“愛国本”のようだが、実際の中身は「いま日本でいわれる愛国心とは、本当に愛国心なのか?」という前提から問い直し、日本社会に浸透しきった「歪んだ愛国」の常識を覆すものになっている。本来の「愛国心」とはなんなのか? 著者の政治思想史研究者・将基面貴巳(しょうぎめん・たかし)氏に聞いた。

***

――本の中で、日本語の「愛国」には意味のすり替えが発生していると解説されています。ものすごく簡単にまとめさせていただくと、生まれ育った土地や風土を無条件に愛する姿勢(=ナショナリズム)ではなく、自分が市民権を持つ共同体において、自由や平等といった基本的な政治的価値を実現する政治制度を維持していこうと努力する態度(=パトリオティズム)が本来の愛国心なのだ、というお話でした。しかし、近年はやっている「日本スゴイ」系番組などもそうですが、今の日本では、政治的価値や制度の話ではなく、もっぱら日本の風土や文化を自分たちで過剰に持ち上げる風潮のほうが強いと思います。そうした流れができてきた理由は、どこにあると思われますか?

将基面 僕は、現代日本人の自信のなさの裏返しだと思っています。ナショナル・アイデンティティに過度に寄りかかって、自国民であることを誇りに思う――その誇りがそこまで肥大しているというのは、逆にいえば自分のアイデンティティの基盤が揺らいでいるからだと思います。僕も含め、いま40代後半より上の世代は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言っていたような浮ついた1980年代の雰囲気をよく覚えています。当時の日本人にとって「経済大国」としての日本が自分たちのナショナル・アイデンティティの基礎となっていたわけです。その頃と比べると、今の日本は「失われた20年」どころか「30年」になろうとしていて、なんとも情けない状態になっている。にもかかわらず、いや、だからこそ、当時抱いた誇りに近い思いをどうしても抱きたい。つまり、「経済大国日本」というアイデンティティが揺らいだ結果として、どうしても誇りを肯定しないといけないという心理的傾向が増大しているのだと思います。

 ただ、日本人がうぬぼれやすいのは、今に始まった話ではないんですよ。1890年代に日本にやってきた宣教師が「日本人はとにかく日本を買いかぶりすぎだ」という話を残しています。1人だけではなく、複数の宣教師たちがそのようなことを言っている。今と比べてどの程度のものなのかはわかりませんが、外国人の目から見ると、どうも昔から日本人はうぬぼれやすい傾向が強いようです。

――そこからずっと抜け出せていないんですね。ネットで可視化されているせいか、近年はよりそういう考え方の持ち主が増えているように感じてしまうんですが、この流れは日本特有なのでしょうか?

将基面 デイヴィッド・グッドハートというイギリスのジャーナリストが、イギリスを舞台に「なぜ特定の人たちがナショナリズムに強くコミットするのか」を分析した書籍(『The Road to Somewhere』)があります。そこで語られているのは、イギリス社会が極端に二分化されているという話なんですね。一方では教育水準も平均年収も高い、イギリス国内に限らずEUでもどこでも生活できるコスモポリタンな人たちがいて、他方では教育水準も年収も相対的に低く、社会的・経済的な地位がどんどん落ちていっている人たちがいる。後者の人たちは自分の経済的・社会的アイデンティティが切り崩されている中にあって、自分の尊厳を保つためにナショナルなアイデンティティに頼らざるを得ない。なぜなら、金持ちであろうと貧乏人であろうと「イギリス国民である」という点においては平等である、との感覚が自分の尊厳を担保するからだ、と分析されています。ラストベルト(アメリカ中西部の斜陽産業が集中する地域)の人たちがトランプ支持に回っている現在のアメリカでも、同じことが起きているといえると思います。

 日本は必ずしもそうではないかもしれませんが、多くの人々の経済的・社会的アイデンティティが揺らいでいることは確かだと思います。特に「経済大国日本」の幻影を追い求める人たちは、すでに経済的に日本よりも成長した中国・韓国を見て、「自分たちのナショナル・アイデンティティを強化しないといけない」という心理になった結果、こんにちのような状況がある――と説明することはできるのではないかと思っています。

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