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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.617

1970年代リスペクトな新春アクション映画2選! 『スタントウーマン』『燃えよデブゴン』

彼女たちはなぜ危険なスタントに挑むのか?

ハリウッドのアクション大作には欠かせない存在となっているマニーメイカー姉妹。

 やはりレジェンドスタントであるジェイディ・デイビッドの証言も興味深い。ジェイディは『フォクシー・ブラウン』(74)の主演女優パム・グリアのスタントを務めた黒人初の女性スタントだった。彼女も「スタントマン協会」に入ることはできなかったが、「黒人スタント協会」は受け入れてくれた。女性スタントと同じように黒人スタントも不当な扱いを受けていたからだった。ジェイディは新設された「女性スタント協会」からも声を掛けられたことが、うれしかったと振り返っている。ひとつしかない体を張る仕事なだけに、信頼できる仲間やセーフティネットの存在は不可欠だった。

 ジュリー・アン・ジョンソンもレジェンド級の女性スタントだ。クリント・イーストウッド主演・監督作『恐怖のメロディ』(71)のクライマックスで窓から落ちるシーンを演じるなど、さまざまな作品で活躍した。70年代の人気ドラマ『地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル』ではファラ・フォーセットのスタントとアクション監督を兼任していたが、撮影中の事故で重症を負ってしまう。男性ドライバーがドラッグでラリっていたことが原因だった。撮影現場にドラッグが蔓延している事実をジュリーは訴えたが、スタジオはあっさりと彼女との契約を打ち切ってしまう。不当解雇だとジュリーは裁判で闘うも、スタジオ側の勝利で終わってしまった。

 スタント業界の暗黒面ばかりを本作は暴いているわけではない。半身不随になる大怪我や命を失うリスクもあるスタントに、彼女たちが挑むのはなぜなのか? アカデミー賞をはじめ映画賞の多くは、スタントを評価する部門もない。一般的に顔や名前が知られることの少ない、影の役割であるのにもかかわらず。

 それでも彼女たちは、女性スタントという仕事に誇りを感じている。もちろん報酬がどれだけもらえるかは重要だが、自分ひとりが脚光を浴びることもよりも自分が関わったシーンがうまく撮れ、面白い作品に仕上がることに喜びを感じている。1秒でもズレると大怪我を負う危険なスタントを、彼女たちは日々のトレーニングによって積み上げてきた熟練の技術と五感を研ぎ澄ませた集中力でクリアする。他の職業では決して味わうことができない最高の緊張感、そして信頼できるスタッフたちとの一体感が感じられるからこそ、スタントはやめられないのだ。さらに彼女たちは男性スタントにはできない、女性ならではのスタントを目指している。富や名声よりも、大切なものがあることを彼女たちは知っている。映画業界のみならず、人はなぜ働くのかという根源的なテーマに本作は言及しているように思う。

 まだ数は少ないが、女性のアクション監督も存在する。スタント出身のアクション監督メリッサ・スタブスの撮影現場での仕事ぶりをカメラは伝えている。女性監督らしくメリッサは思慮深く、細かいチェックを怠らない。カーアクションシーンの撮影前、メリッサはスタッフ全員を集めて確認のためのミーティングを開く。「忙しいから後で」という男性助監督を、メリッサは「ダメ。ミーティングはすぐ済むわ」とたしなめる。人命に関わるカーアクションだけに、決してなぁなぁでは済ませない。人の命を預かる立場にあるメリッサの表情は毅然としていて、神々しさすら感じさせる。

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