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“民主化しない中国”の謎を橋爪大三郎が社会学視点で読解──党総書記が法律を超越する!

文=古澤誠一郎

共産党の正史ではない社会科学の研究書

 香港国家安全維持法の施行後は、公立図書館で民主派の一部の著作が閲覧・貸出禁止になるなど、言論統制も加速している。

「中国は明の時代も清の時代も、政府に都合の悪い書籍を禁書扱いにしてきました。反対派の本は『ないもの』とされてしまうわけです」

 そのため中国で歴史を学ぶ際は、「正史として認められた歴史を読む」という選択しか残されていない。研究を行おうにも、「史料が残っていれば歴史は書き直せるが、それが散逸していれば不可能」という状況なのだ。

 そんな中で橋爪氏が以下で挙げてくれた書籍は、共産党が認める正史を描くものではなく、「エビデンス、データとセオリーに基づいた」、社会科学の研究者が手掛けたものだ。そのため中国では閲覧できない書籍や、発行されていない書籍も含まれている。

 まず「本気で現代中国について研究したいと思うなら、最初にこれを読むべき」と推薦してくれたのが、『中国政治経済史論 毛沢東時代』、『中国政治経済史論 鄧小平時代』の2冊。いずれも700ページ超の大著で、政治と不可分である中国経済史の骨格を明らかにする内容だ。

 著者の胡鞍鋼は1953年生まれの経済学者。中国の市場経済への移行を推進する改革開放の政策立案にも関わっており、近年は“習近平のブレーン”のひとりとみなされることもある。

「以前は在野の独立派のリーダーのような人でしたが、最近は『お前は習近平にくっついて変節したのか?』などとネットで言われることもある。彼は経済学者なので、この2冊は膨大なデータをもとに、社会科学の手法で中国経済の動態を歴史的に研究しています。習近平政権に助言をしているのも、経済学者として合理的な経済学を打ち立てて、人民に尽くすため……と考えているからではないでしょうか」

 なお『中国政治経済史論 毛沢東時代』は、1949年の新中国成立から1976年の文化大革命終了まで、毛沢東が共産党の指導者として中国を率いた時代の政治・経済の流れをまとめたもの。『中国政治経済史論 鄧小平時代』は、1977年から90年代初めにかけて、鄧小平らが中心となり、改革開放をスタートさせた時代についての論考だ。その中では「毛沢東の失政をもたらしたのは体制の欠陥」といった指摘もなされている。

「彼が行っているのは政治的な批判ではありません。徹底してデータに基づいた記述を行うことで、客観的かつ科学的に中国の政治・経済の課題を掘り下げているわけです」

 また橋爪氏と親交の深い米国の社会学者・エズラ・ヴォーゲルの『現代中国の父 鄧小平』も推薦。エズラ・ヴォーゲルは中国と日本を筆頭に、東アジア関係の研究を行ってきた社会学者だ。

「改革開放のリーダーであり、現代中国の基礎を作った鄧小平は非常に偉大な人物ですが、きちんとした評伝がなかった。そして毛沢東とは異なり、鄧小平については家族や友人などの親しい人物にまだ存命の人も多くいました。『ならば私が書いてやろう』と、外国人の学者という自分の立場もうまく利用し、関係者への聞き取り調査を行った上でまとめたのが本書です。中国の人が必ずしも書けない微妙な問題が描かれています」

『現代中国の父 鄧小平』は中国でもベストセラーになったが、次に推す『文化大革命の真実 天津大動乱』は日本と台湾で発売されたのみ。中国でいまだ発売されていない。著者・王輝氏は社会学者だが、文化大革命の時期には天津市政府の幹部として活動していた。

「王輝さんは天津市の市長秘書室のような部署にいた人で、文化大革命のあいだ、ずっと打倒されなかった稀有な存在。共産党の内部事情にも詳しく触れている点が特徴で、ほかの文化大革命の実体験本とは異なります」

 こうした中国の近現代史を扱った書籍を読めば、現在の中国社会の動向の背景もよくわかるようになるはずだ。

「中国人のことは中国人に聞けばわかるのかというと、そうとは限らない。中国人の書いたものを読んだ場合も、同じことが言える。人は自分にとって当たり前なことほど自覚できないし、考えないからです。例えば日本人は『空気を読む』『忖度をする』と最近よく言われますが、そのような言葉がない時期から、日本の人々は空気を呼んでいたし忖度をしていた。だからこそ社会科学では『外から観察すること』が大事にもなるし、観察の方法もきちんと考えなくてはいけない。私が取り組んでいる社会学は、その部分を一生懸命考え続けている学問でもあります」

 そして中国社会について深く知ることができれば、自分たちが当たり前のように触れている日本社会や、民主主義、資本主義への理解も深まるだろう。

「民主化とは『政治権力を有権者が作るようになること』であり、民主主義とは、選挙結果によって政権を誰が取るのかが決まるシステムです。この仕組みは250年前のアメリカで作られたもので、西側の国々の間で広まりました。でも、世界的にはこのやり方は今も稀有。欧米以外で議会制と普通選挙を行っている国は日本などごくわずかですから。その一方、まず自己主張をせずに相手の様子を見て、空気を読んで行動をする日本社会は、独立した個人が今も存在していない。伝統社会のまま近代社会の真似事をしている状態です」

 いつまでも民主化しない中国を、日本人はどこか上から目線で見ているかもしれないが、「日本は日本で変な社会だし、ひとの国のことを言っている場合ではありません」と橋爪氏。そんな日本のおかしさを自覚するためにも、我々は中国をきちんと知るべきなのではないだろうか。

橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『4行でわかる 世界の文明』(角川新書)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)など。現在、米中関係をテーマにした書籍を構想中。

(文/古澤誠一郎)
※全文は「サイゾーpremium」でお読みいただけます。

最終更新:2021/01/15 09:00
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