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リーマンショックを超える大暴落──世界を動かし、中東を変化させるコロナ後の石油地政学を占う11冊

──コロナ禍による原油需要の減少を背景に、アメリカではシェールオイル関連企業が破綻。これにより中東情勢が一層世界を動かす時代が到来しつつある。実は日本人の生活にも密接に関わっている“石油と中東”に詳しくなれる11冊を厳選して紹介。

リーマンショックを超える大暴落──世界を動かし、中東を変化させるコロナ後の石油地政学を占う11冊の画像1
『石油の世紀 支配者たちの興亡(上)』(日本放送出版協会)

 一時は世界のエネルギー情勢に革命をもたらすとまでいわれ脚光を浴びたシェールオイル関連企業の経営破綻が、アメリカで相次いでいる。

 シェールオイルやシェールガスを生産していたアメリカのエネルギー関連事業「チェサピーク・エナジー」は、6月28日、テキサス州の裁判所に連邦破産法11条の適用を申請。アメリカでは、このほかにもシェールオイル関連企業の破綻が続いており、このままでは、これらの企業を支援している金融機関の経営まで危機に陥る可能性があると懸念されている。もしそうなれば、世界経済に与える影響はリーマンショック以上だ。

 このような事態が起こった大本は、ほかでもない世界を席巻する新型コロナウイルスの蔓延なのだが、中東とオイルビジネスの現状を考察する前に、まずはそもそもシェールオイルとはなんなのか改めておさらいしておきたい。まずは『「シェール革命」の夢と現実』(PHP研究所)などの著書がある、元丸紅経済研究所所長で、資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏に解説していただこう。

「シェールオイルは、地下3000~4000メートルのところにある頁岩という硬い岩盤の中に含まれている油分のことです。その存在は60年代から確認されていたのですが、取り出すのが難しくコストが見合わなかったので、長く有効な資源とは見なされていませんでした。そんな中、1989年に創立され、シェールオイルの開発を手がけてきたのが今回破綻したチェサピーク・エナジー。同社はまさに、技術革新を背景にしたシェール革命の象徴的な存在だったのです」

 アメリカ産の原油は長く枯渇傾向にあったがシェール革命が起こったことで、2008年頃から上昇に転じ、18年は過去最高の原油生産量を記録した。19年末には、これまで悲願だった初の石油の純輸出国になるまでにこぎ着けたという。その状況を一変させたのが、今回の新型コロナだ。柴田氏が続ける。

「オバマ政権もトランプ政権もこのシェール革命には期待を寄せ、特にトランプ政権は『これからは石油を中東に依存しなくてもいい』という自信から、中東軽視の外交戦略をとってきました。ところがコロナウイルスの流行により、飛行機のジェット燃料などの輸送用燃料需要が急速にしぼみ、石油需要がほとんど消滅。原油はマイナス価格になるという前代未聞の状況になり、この価格急落を受け、アメリカのシェールオイル関連企業は相次いで経営破綻。これにより、サウジアラビアやイランなど、中東の従来の石油原産国の発言力が再び増大し、世界情勢が大きく変わっていくだろう、ということは間違いないですね」

 オイルビジネスは中東情勢と切っても切れない関係にある。しかし、一口に中東といってもその範囲は広く、さまざまな立場の国があり、その全容を把握するのは非常に難しい。そこで今回は、中東情勢とオイルビジネスの密接な関係について、そして中東という地域そのものについて理解を深める本を紹介したい。

石油ビジネスを生んだ怪しい山師たち

 まず『サウジアラビア―変わりゆく石油王国』(岩波新書)などの著書がある、日本エネルギー経済研究所中東研究センター長の保坂修司氏は、世界における石油ビジネスの歴史を知る本として『石油の世紀』を推薦する。保坂氏が言う。

「この本は91年に発行されたものですが、石油の歴史に関する書物としては、すでに古典のようになっています。石油の歴史を知ることができるだけでなく、まるで大河ドラマのような読みものとしての面白さがあります。中東ではイランで1908年頃、サウジアラビアでは1937年頃に石油の開発が始まるのですが、その利権を狙って集まってきた人々がいかに個人の才覚で山師のような活躍をしていたのかを描いている点でも、この本は興味深い。特にロックフェラー財閥がいかにアグレッシブなやり方で世界の石油の利権の大半を獲得していったのかが、この本を読むとよくわかる。結局ロックフェラーはアメリカに入る石油の大半を手中にしたために独占禁止法に引っかかり、30以上の会社に分割されるのですが、その経緯も詳しく書かれています」

 それでは、資源に乏しい国である日本は、どのように外交で石油を獲得しようとしてきたのか? そこで保坂氏が挙げるのが、『「経済大国」日本の外交』である。

「この本は、オイルショックまでの時期に日本が資源外交で何をしてきたかを学術的に検証しているのですが、特に田中角栄、中曽根康弘、大平正芳ら政治家たち、そして通産省(現経産省)と外務省の対立を明確にすることで、日本の資源外交の脆弱性やその変容を描いています。世界と同じく日本の資源外交でも、山師的な人が活躍していました。サウジアラビアやクウェートの石油利権を獲得してアラビア石油という会社を創設した山下太郎や、アブダビの石油資源獲得で重要な役割を果たした田中清玄は、その代表的な人物。官僚的なきれいごとや建前だけでは、資源外交は務まらないということでしょう。現在の安倍首相は日本の歴代首相の中で一番多く中東諸国を訪問していますが、彼の祖父の岸信介こそ、アラビア石油の山下太郎をバックアップしていた人物ですから、安倍首相はエネルギーを重視した祖父の影響を受けているのかもしれないですね」

 カイロ大学を卒業したと自称している小池都知事といい、中東とのパイプは日本においても大物政治家に必須な条件であるようだ。

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