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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 『バブリーダンス』創出した高校生の新価値観
高校ダンス部に3年間密着したドキュメンタリーの裏側

「もはやスクールカーストは終わった!?」『バブリーダンス』を生み出した高校生たちの新しい価値観

いまの高校生は“スクールカースト”がない?

 部員たちはそれぞれダンスの経験もさまざま。ダンス部は学校によって文化部・運動部の線引きも異なり、幅広い個性の持ち主たちがひとつのステージを作り上げていく。その様子を追うなかで、こんな気づきがあったという。

「SNSが行き渡って約10年経ち、誰もがスターになれるかも…と思わせぶり過剰な時代に、スターになれない人がどうやって生きていくのか、ということに関心が向いていました。その答えのひとつがダンス部にある。センターで踊るいわばスターと端で踊る子、ステージに上がれない子も、並列的な関係性でひとつのチームをつくり上げている。お互いをリスペクトして、それぞれに役割があって自然と認め合うような雰囲気が高校ダンス部にはあるんです」

 競争の中で個性を見出すよりも、協調してひとつの世界観を作り上げていく――こんな話を聞くと、イマドキの若者に対して、優しくお行儀がいいイメージを抱く印象かもしれない。だが、ダンスタというコンテストに向けて練習をしている以上、ダンス部員たちは当然、結果にもコミットしなければならないはずだが……。

「もちろん、コンテストには勝ちたいという意思は強いです。人前で踊ることに躊躇がない世代ですし、結果を出したいという気の強さは併せ持っていますね。勝ち抜くことと協調すること、一見、矛盾しているようですが、結果だけを目的にするのは『ダサい』。同じようにダンスの上手な子が、下手な子を軽んじるのも『カッコ悪い』という価値観が育っているように思いました。これは格差社会が広がる中で出てきた若者世代のカウンターではないかと。お互いの個性を引き立て合うダンス部のチームづくりの妙が書籍のテーマになっていきました」

 オンライン化が急速に進むなか、リアルな時空間を基盤とする体験や身体性の共有などアナログ的な価値についての議論も多い昨今。心理的安全性が担保された組織づくりやチームワーク重視の働き方を考える上で、ダンス部は非常に象徴的な部活と言えそうだ。

「それも部活ダンスが人気の理由なのかな感じましたね。取材した学校だと、ほとんどが校内で一番人数が多い部活動で、100人以上の部員を抱えるダンス部もザラでした。語弊があるかもしれないですが、クラスで目立つような中心的な子からそうでもない子までいる。でも取材中、『桐島、部活やめるってよ』の話がけっこう出たんですが、「桐島」の前提になっている“スクールカースト”に実感が湧かないとほとんどの高校生が言っていました。時代の変化を強く感じました」

20年代に響くドキュメタリーとは?

 コロナ禍において高校生たちがどのように行動し、「部活」という組織の潜在能力をいかにして引き出していったのか。本書では、ドキュメンタリーの編集過程でカットした部分も含め、その軌跡を丹念に辿っている。

「ダンススタジアムはコロナ禍でほとんど唯一の高校生ダンス大会になったので、そこにかける気持ちは例年以上のものがありました。映像だとダンスというハレの舞台に集約されるし、彼女たちのダンスを見せる方向で仕上げるので、どうしても背景部分を表現しづらい。文字のほうが、背後にある気持ちや価値観を伝えられるかなと。ダンスや部活に偏見を持つ人たちにも読んでもらいたいですね」

 その時代を象徴するスーパークリエイターを被写体に、自らカメラを手にして向かい合ってきた中西さんだが、高校ダンス部の取材を通じて自身の作風も変わりつつあるようだ。

「これまでは圧倒的な結果を出している時代の寵児にカメラを向けてきました。でも、スターではなくチームワークを前提とした集団芸術としての部活ダンスには引き続き興味あるし、伝えていく意味もあるのかなと。いま自分で会社も始めたんですが、そこで出す企画もほとんどは一般の方を被写体に考えています。未来の日本の組織のあり方を考える上でも、20年代はスター以外にスポットライトを当てることで世の中を見ていくようなコンテンツが大切だと考えていますね」

『NHK「勝敗を越えた夏2020~ドキュメント日本高校ダンス部選手権~」高校ダンス部のチームビルディング』
出版社/星海社 価格/1180円(税別) 発売中

(著者プロフィール)
中西朋(なかにし・とも)
映像ディレクター/コンテンツ制作knot主宰 立教大学卒業後、ドキュメンタリーを作り始める。限定公開「劇場版きゃりーぱみゅぱみゅ」、ガンダム産みの親の創作現場に初めて迫ったBlu-rayシリーズ「富野由悠季から君へ1・2」、NHK「世界ビジネスの冒険者たち」(フラグメントデザイン藤原ヒロシ/アソビシステム中川悠介/DMM.com亀山敬司のオムニバス)、日本テレビ・スタジオジブリ公開記念特番「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」、Googleオフィシャルムービー「クリエイタースポットライト・ヴァンゆん」などを企画・演出。NHK BS-1「勝敗を越えた夏」は2018年初回から3年に渡り、企画及びディレクターを担当。「勝敗を越えた夏2020~ドキュメント日本高校ダンス部選手権~」で第58回ギャラクシー賞上期・奨励賞を受賞。

1988年生まれ、道東出身。いろんな識者にお話を伺ったり、イベントにお邪魔するのが好き。SPA!やサイゾー、マイナビニュース、キャリコネニュースなどで執筆中。

Twitter:@tsuitachiii

いとうりょう

最終更新:2021/01/26 14:00
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