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「働く上でなんの意味もない」と就活で否定する企業も……家族を介護する“ヤングケアラー”の孤独と本音

学校はヤングケアラーをどう支援すればいいのか

――以前、沖縄の若年層の貧困問題について取材している琉球新報社の記者の方にお話をうかがったことがあり、そのときに「今はみんな身ぎれいにしているし、お金がない家庭の子でもスマホは持っているから、外からは誰が問題を抱えているのか、なかなか見えない」という話がありました。ヤングケアラーも同じで、誰がどのくらい大変なのか、わかりづらいですよね。

澁谷 ケアしている子たち自身が、普通に見られたい、特別扱いされたくない、ほかの子と対等でいたい、あるいは「家族の事情を『言い訳』にしてサボっている人」とか「重たい事情を背負った人」に見られるのはイヤだという気持ちや、「親が精神疾患と知られたら、いじめられるんじゃないか」といった不安があってオープンにしたがりませんから、そういう傾向はあると思います。

――家族のケアに携わるために不登校になったり学校を辞めたりした方の話も本に収録されていますが、学校を辞めると周りの大人はますます把握しづらくなり、支援もしにくくなりますよね。

澁谷 その通りです。「なぜヤングケアラーの定義を18歳未満とするのか」という議論がありますが、日本においては多くの子が高校に行く、つまり18歳までは教育機関を通じてサポートできる状態ですよね。その段階でケアや進路に関する相談が教育機関を通じてできたほうがいいと考えています。

 例えば、中学生に「行政で『地域包括支援センター』というものがあるから、行ってみたらどう?」と言っても、おそらくほぼ行きません。また、若者ケアラーが地域の介護者サロンに行ってみたら、「年金がどうの」といった声が飛び交っていたので行くのをやめた、といった話があります。子どもにとって身近で大事な意味を持つ学校という時間と場所を資産として、そこにいろいろな人が入っていく――教師の負担を増やさない形で――、学校で相談できる人を作り、大人への移行期をサポートしていくのが大事だと思います。

 本人たちが不登校になり、また「学校を辞める」と周囲に言い出すときには、極限までいろんな工夫をして、やれることはすべて手を尽くしたけれども、それでももうムリだと追い込まれていて、すでに気持ちが固まっていることが多いです。それに対して、大人や教育に関わる人たちが単に「学校に来なさい」「辞めないほうがいい」と言うだけではなく、どういう構造の中でその子が選択をしようとしているのかを聞いてあげてほしい。ヤングケアラーは「学校よりもこっちを選ばざるを得ない。自分しかやれる人間はいないんだ」「誰もわかってくれない」と思って、ほかの人との価値観のすり合わせに疲れてしまっていることが多いですから。学校がヤングケアラーにとって意味のある場になるように、周囲が言葉かけを変えたり、「受け入れてもらえる」と感じられる環境をつくれば、少しは変わってくるかもしれないと思います。

――なるほど。

澁谷 それともう一方で、ヤングケアラーは18歳以上になるとそのまま若者ケアラーになっていきますから、問題は連続しています。高校卒業をすると進路は本当にひとりひとり違いますが、いわゆる自己責任論を内面化している場合にほかの人とつながれない、頼れない(頼らない)度合いが強く、家庭の中に閉じていってしまう人も出てきます。そこでいざ支援をどこでどう作るのかは難しいのですが、こちらは地域の若者支援や相談事業でやっていくといった形で、ヤングケアラーに対する支援の仕方とは変わってくると思います。

疲れ果てて、すぐには働けないことも

――18歳未満は学校中心に、18歳以上は地域や行政でサポートしていくと。

澁谷 はい。ただ同時に、安易に年齢で区切るだけではない視点も持ってもらえたらなと思っています。中公新書から出した『ヤングケアラー』の取材時に、元ヤングケアラーから「ヤングケアラーがどうしたら学校に残れるかも大事ですが、頑張っても『ムリだ』と思って辞めた後、状況の変化があって『戻ろう』『戻りたい』と思ったときに戻りやすくする方法もあるといいですよね」と言われて、目からウロコでした。確かに、時間を置いて環境が整って「学びたい」と思ったときに、戻れたり、ケアに費やした努力と成果が評価される仕組みがあっていいはずです。

 ケアのために大学進学をあきらめた子たちが何年か経って大学に行きたいと思ったときに、「新卒採用の対象は○歳まで」という企業採用の年齢を気にして二の足を踏んでしまったり、若い子たちに混ざって頑張って勉強したとしても「果たして就活で評価されるのか」と案じて気持ちがグラついたりすることがよくあります。

――日本は一度「当たり前」とされているレールから外れた人に冷たい社会ですよね……。

澁谷 少なくとも、若者たちはそう感じています。話はややずれるかもしれませんが、私自身、出産して子どもたちがまだ小さかった頃、果たして自分が働けるのかどうかわからなかったんです。競争の激しい研究者の世界で、「子どもを選んだ人」「仕事に熱心でない人」というレッテルを貼られそうだというプレッシャーがありました。子どもが夜泣いたらミルクをやり、オムツを替え、気力と体力が取られ、ムリをすると自分が体調を崩してしまう。それでも、1日24時間しかない。子育ての負担がまったくない人と同じことはできない。でも、「やる気がない人」と思われるのはイヤでした。

 私が研究者の世界に復帰できたのは、RPD(研究活動を再開する博士取得後の研究者)という、子育てが理由で研究活動を中断してしまった人たちを数年サポートする仕組みがあったからです。研究者の世界では、業績がなければ就活のスタート地点にも立てません。ひと昔前なら子どもを産んだ時点で戻れなかったんでしょうけれども、制度によって猶予を持たせてくれた。この経験が、私がヤングケアラーを研究するときに活きています。

 ヤングケアラーの中には、たとえケアを終えたとしても、疲れ果てていてすぐには働けない人もいます。その場合は休んで余裕を取り戻す時期が必要です。そういう人が今20代だとしたら、平均寿命まであと約60年あるわけですから、そこからでもその人なりにやりたいことができるような社会になればな、と。

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