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コロナでさらに状況悪化? 「琉球新報」が見た貧困と暴力に苦しむ沖縄の少年少女…性風俗で客ひとり2500円

文=飯田一史(いいだ・いちし)

写真/Getty Images

「琉球新報」にて2018年1月から8月まで続いた連載をまとめた、琉球新報取材班『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま』(朝日新聞出版)が去る3月に刊行された。

 SNSで出会った大人に騙されて小学生ながら性風俗店勤務に追い込まれた少女、仲間との関係から窃盗を繰り返す少年……本書に登場するのはそうした少年・少女たちだ。しかし、彼ら/彼女たちは必ずしも個人の性格や資質ゆえに夜遊びや非行、犯罪をしている(または犯罪に巻き込まれている)のではない。彼らが直面する現実の背景には社会的な雇用環境の悪さに起因する家庭の貧困があり、教師をはじめとする大人の無理解がある。

 新型コロナウイルスの影響で沖縄に限らず日本中で多くの人々が収入減に見舞われ、また、DVが増えているといわれている。

 本書で描かれるような子どもの姿は、日本のほかの地域にすでに存在する、あるいは、これから増えていくかもしれないものでもある。

 取材・執筆に携わった記者のひとりで、子どもの貧困問題に長く向き合ってきた稲福政俊氏に訊いた。

琉球新報取材班『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま』(朝日新聞出版)

性風俗で働く18歳未満の弱み

――どんな問題意識からこの連載は始まったのでしょうか?

稲福 沖縄では平成27年度(2015年度)から「沖縄県子どもの貧困実態調査」を実施していますがこの調査を受けて、弊社では全社的に取材を行い貧困問題に取り組みました。その流れから「さらに掘り下げて、今一度追うことが必要だ」とある記者が呼びかけ、改めて取材班をつくり連載を始めました。

――連載に対する反響は?

稲福 賛否共に相当にありました。「こんなことになっていたとは知らなかった」という驚きの声もあれば、「性風俗への勤務は自ら望んでやっているだろう」「売春は犯罪だ」といった批判もありました――後者に関しては「売る側は保護の対象であって、犯罪ではない」と説明しましたが。

――本に出てくる取材対象者の話によると、18歳未満で性風俗の仕事に就いている子たちの手取りが客ひとりにつき2500円とか5000円とか、あまりの安さに驚きました。

稲福 「風俗は儲かる」と一般的には思われているんでしょうけど、店に最低でも半分以上持っていかれて、お客さんがあまりいない日だと手取り何千円の世界。そこからさらに送迎費が引かれますから、その日食べていけるかどうかくらいの金額しか得られていないことも多いんですね。

――しかも、女性が辞めようとすると雇い主側の態度が急に強硬的、暴力的になって抜け出せない、というのも印象的でした。

稲福 店側は彼女たちが未成年だとわかって雇っていますから、雇われる側は弱みを握られているんですね。同時に、逆に通報されても店の側は困りますから、辞めさせないようにするしかないんだと思います。

不登校になった日を明確に覚えている

――学校に行かずに非行、犯罪を繰り返しているとか、性風俗に従事しているといったことは、「あいつは不良だから」といった形で個人の問題に回収して語られがちですが、この本を読むと経済環境が大きく作用していることがわかりますよね。賃金が安くて雇用が不安定だから、女性はダブルワークや夜の仕事をし、男性はきつい肉体労働に就く。そういう母親・父親はストレスを抱えて子どもに暴力を振るい、すると子どもはSNSや街に逃げ場を求めて家や学校から抜け出し、そこで出会った異性と子どもをつくる。結果、学歴がないから安定した仕事に就きにくい――こういうことが繰り返されている。

稲福 高校中退や中卒だと就職先が限られて、貧困の再生産、負のスパイラルに陥っていきます。沖縄の行政としても、その連鎖を断ち切ろうと就学援助を周知して、大学に行くときに給付型の奨学金を作ろうということでやっていますが……。そもそも支援の手を差し伸べようとしても、子どもの側から大人が信頼されていないんですね。子ども同士の世界に閉じてしまっている。

 いじめに遭ったり、先生から心ない言葉を浴びせられたりして、学校に通わなくなった子たちだけで集まっている家に取材で入らせてもらったんですけれども、4~5人いたみんなが学校から追い出されてきているんです。「なんで学校行かなくなったの?」と訊くと、例えば、教頭にスカート丈が短いといきなり指摘されて「もう来るな」と言われた、と。その子は学校でいじめを受けていましたが、教師側は気づいてくれないばかりか「お前が悪い」という態度でだったので、大人に対する不信感が生まれてしまったんですね。

 ほかの子も、「何月何日から学校に行かなくなった」「こういう出来事があったから行かなくなった」と明確に覚えていることが多いのが印象的でした。

――みんな、何か気持ちが変わってしまう出来事があったから覚えているんでしょうね。

稲福 そういう子たちがいわゆる“ヤンキー”のような格好をしているかというと、そういうわけでもないんですね。沖縄ではヤンキーといわれる子たち、非行する子は減っていて、補導件数も減ってきています。ただ、昔だったら外に出てエネルギーを発散していた子が、そうではなくて家にこもっているのかもしれない。そうすると、ますます社会から問題を抱えている子たちや、その背景が見えなくなりますよね。

――自発的にこもる子にどう手を差し伸べればいいかも気になりますが、コロナ禍で家にこもらざるを得ないことによって起きる問題も気になります。全国的に、仕事のなくなった大人が不安やストレスなどからDVをするケースが増えているそうですが、本書に出てきたような少年・少女の逃げ場がなくなっているのでは……?

稲福 記事を書いた後、連絡が取れなくなっている子も多いので、今どうしているかという話はできませんが、中にはネグレクトされて親との信頼関係が切れている子もいましたし、お金を持っている友達におごってもらってなんとか食べている子もいたので……確かに心配ですね。家の外にしか居場所がない子もいますから。

どんな問題を抱えているか見えづらい

――本の中では、家や学校に居場所がない少年・少女たちのための居場所を作ることが重要だ、と説かれていました。一方で、雇用を作ることも大事なのではと思ったのですが、沖縄でそういう考えから事業を展開している方はいますか?

稲福 おっしゃる通り、雇用政策もしっかりしないといけません。低賃金と不安定な雇用がこうした問題の根っこにありますから。ですが、雇用関係に関してはまだ弱いかもしれません。少年院や鑑別所が協力企業を探してつなぐ活動はやっているものの、大々的に「高校中退、中卒でもいいですよ」という会社はまだ少ないと思います。ただ、あるホテルはそういう子たちであっても、寮を用意して料理人の見習いなどとして雇おうという動きを始めていました。

――この本を読むと、どこから手を付けたらいいんだろう、どういう条件が揃えばこの本に出てくるような少年・少女がもっと生きやすくなるのだろうと途方に暮れてしまうのですが、稲福さんはその点どうお考えですか?

稲福 そこは、連載のときからたくさん意見が寄せられたポイントです。難しい問題ですが、私が感じているのは、学校から手を離れてしまうとすごく支援が届きづらくなる、ということです。学校に通っている子に比べると、高校中退、中卒で街や家にいる子たちがどんな問題を抱えているかは本当に見えづらい。ですから、まずは学校を拠点にしての支援体制が整えられたら。もちろん、先生方は非常に多忙ですから、学校以外の地域の方なども巻き込んで、子どもたちひとりひとりに目が届く体制を作れないかと。学校は秩序を重んじて問題行動を起こす子は弾きがちですが、例えば服装に関して校則違反をした子を叱って家に帰すのではなく、校内で受け入れて指導する動きを応援していく、といったことからでも意味があると思います。実際、そうした指導を行っている先生方は増えています。

沖縄以外でも拡大する貧困

――全国的にコロナショックで親の仕事が失われて教育機会を失った生徒・学生がすでにたくさんいますし、今はなんとか乗り切れても、今後の進学の計画が崩れた家庭・子どもも少なくないと思います。そうなると、この本で描かれているような光景が、日本各地のそこかしこに現れてくるのではと思うのですが……。

稲福 容易に想像できますよね。子どもたちの問題は大人の問題ですから。大人の問題のしわ寄せが子どもにいくんです。

 沖縄では2010年代半ばから子どもの貧困の調査を始めたことで問題が可視化されましたが、まだこうした調査自体をやっていない地域もあります。もちろん、『夜を彷徨う』で書いたことには沖縄特有の部分もあります。しかし、沖縄以外でも近い問題はあるだろうと思っています。コロナがなかったとしても、そもそも非正規雇用、年収300万円以下の世帯の割合は全国的に増えていますから。

 ぜひ知ってもらいたいのは、こういう子たちは身の回りにいても、じっくり話を聞いてみないと“見えない”ということです。身なりが明らかにヤンキー然としている子も、ボロボロの服を着ている子も、今はほとんどいません。外見だけではどんな生活環境にいる子なのか、どんな問題を抱えているかは全然わからないんです。意識して目を向けないと“見えない”。でも、支援の手が届いていない子たちがたくさんいます。そういうことを想像してほしいと思います。

 それから、子どもを救うためにも、大人も困っていたら助けを求める。家庭の問題、お金の問題はなかなか人に言いづらいことですが、大人の側も自分だけで抱え込まないでもっと声を上げていく、それがしやすい社会をつくっていくことが必要かもしれません。

飯田一史(いいだ・いちし)

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

最終更新:2020/05/07 13:47

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