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『家、ついて行ってイイですか?』恵比寿に住む泥酔シャンソン歌手とカオスとウォン・カーウァイ

『家、ついて行ってイイですか?』恵比寿に住む泥酔シャンソン歌手とカオスとウォン・カーウァイの画像1
『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)

 3月3日放送『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)は、題して「ひなまつり 女の波乱万丈人生! 今、どうなったの?SP」だった。過去に番組が取材した女性が現在はどうなっているか確認するという趣旨である。つまり、通常のロケVTRに取材対象者の“その後”を追った追加素材が付け足される形だ。

ウォン・カーウァイの映画を観ているのと似た感覚

 2016年9月、深夜の恵比寿で番組スタッフはある1人の女性に遭遇した。見るからに泥酔しており、全身は雨でびしょ濡れである。

スタッフ 「何かあったんですか?」
女性   「普通、みんな何かあるでしょ」
スタッフ 「結構、今日はお酒飲まれたんですか?」
女性   「飲まれましたよ。間違いなく飲みましたよね。アナタは飲まないんですか? 間違いなく?」
スタッフ 「結構、濡れてますけど大丈夫ですか?」
女性   「まあ、濡れてますよ。私もアナタも」

 その受け答えから、奔放さと同時に芯の強さを感じた。まるで、映画『スローなブギにしてくれ』の浅野温子のようだ。VTRを見るおぎやはぎ・矢作兼は「俺が有名監督だったら『君、女優にならないか?』って聞いてるね」とコメントしたが、同感である。徒歩で帰れる距離にあるという彼女の自宅へスタッフはついて行くことにした。

スタッフ 「ついて行っちゃダメですか?」
女性   「いいけどさ。私はどうなるんだろう? どうなるんだと思う?」
スタッフ 「それは今日ってことですか? 人生ですか?」
女性   「人生だよ」
スタッフ 「何かあったんですか?」
女性   「ないよ! あるよ!」

 極度の泥酔状態にある彼女の素性を探るのは一苦労だ。

スタッフ 「今、おいくつなんですか?」
女性   「31になってるよ」
スタッフ 「全然、見えないですね」
女性   「どういうことさ!?」
スタッフ 「いや、お若い……。出身はどこですか?」
女性   「山口だが。山口だが何か?」
スタッフ 「いつ東京に出てきたんですか?」
女性   「アナタに私が言う義理があるのかね?」
スタッフ 「お仕事は何をしているんですか?」
女性   「猫を飼ってるんです」

 こんなカオスなやり取りを続けているうちに、千鳥足の彼女は転倒してしまった。映像上は隠していたが、パンツは明らかに丸見えになっていた。以前、筆者は同じようにベロベロになる女性を恵比寿で見たことがあるが、あれって彼女だったのかな……。あと、このVTRを見るゲストの前田敦子が「嘘でしょー!」とリアクションしている構図もシュールだ。だって、合コンで泥酔して佐藤健にお姫様抱っこで送ってもらった過去が前田にはあるだけに。

 実はこの女性、結構美人なのだ。それでいて、話し相手との距離の詰め方が極端。何かが起こってもおかしくなさそうな隙と雰囲気があるのだ。色々な意味で危なっかしい。

スタッフ 「もし、お家遠いようであればタクシー乗ります? 一応、タクシー代払う番組なんですよ。コンビニで何か買います?」
女性   「何が目的? あの、何が目的?」
スタッフ 「目的は、家の中を見せていただくっていうだけです。本当に」
女性   「お家が見たいの? 猫いるけど平気?」

 思わせぶりな態度でスタッフを振り回し、楽しんでいるかのような彼女。松本まりかのインスタライブを見たときに感じるものと同種のあざと可愛さがある。『家つい』をパロったナンパAVが存在するが、こちらもR指定スレスレだ。

 ようやく、女性の自宅に到着した。築33年、家賃8万円の1DKには飼い主の帰りを待つ可愛い猫ちゃんがいた。転倒して地面にさんざん寝っ転がったのに、着替えないでそのままベッドに寝転ぶ女性の動線が心配になる。彼女のお尻はビチョビチョだ。部屋を見渡すと、ピカソを模写した絵が壁に描いてあった。賃貸マンションなのにいいのだろうか……。

 部屋で落ち着いていたら、彼女は次第に素性を明かしてくれた。名前は大塚茉莉子、職業はシャンソン歌手。今までに2枚のオリジナルアルバムを発表したという。確かにサブスクで検索すると、彼女の曲を発見することは容易だ。実際に聴いてみたが、引き込まれる見事な歌声だった。

――どういう所で歌ってるんですか?大塚 「シャンソンのお店ですよ、シャンソニエ。お客さん呼んで……ホステスみたいなもんです。『パパ(お客)は何人呼べる?』って、いつも(ママから)聞かれますよ」
――ホステスとしてシャンソンを歌ってるんですか?
大塚 「そこにいる人たちはね。私はそう思ってますよ。だから辞めたんです。今のシャンソンの世界がそうだってことですよ。変でしょ? 誰と関係を持って、誰と仲良くしてるか。違うよ」

 かなりエキセントリックではあるが、魅力的な人だ。目つきや表情から漂う色気が凄い。人生の苦難やこじらせが彼女の芸術性を高めている気もする。魂で話しているから会話が成立しなくなることはあるが、「天才ってこんな感じなのかも」と力づくで納得させられた。もしこんな女性と出会ったら、ちょっと好きになってしまいそうだ。男から見ると魅力的だから。こういう子はモテる。彼女と会話すると(彼女の会話を見ると)、ミニシアター系の映画を見ているような感覚になるのだ。香港映画『恋する惑星』を見た後の感覚と少し似ている。

 この取材から4年5カ月が経った現在の大塚さんとテレビ電話で話す機会が今回は設けられた。メイクをし、ちゃんと素面でいるときの彼女はやっぱり綺麗である。泥酔時とはまるで別人で、そこは安心した。

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