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Netflixが日本のテレビを潰す? 「参入5年で500万人突破」にテレビ局はどう対抗するのか

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Netflix

──テレビに引導を渡す、とうたわれたNetflixが日本に上陸して5年。話題作を連発し、世界で2億人もの会員を獲得するに至ったこの“怪物”に、斜陽産業といわれて久しいテレビ業界はどんな視線を投げかけるか。(月刊サイゾー3月号より一部転載)

 Netflixの快進撃が止まらない。

 同社が2021年1月19日に公表した決算報告によると、20年末の時点で世界の有料会員数は2億人を突破。新型コロナウイルスによるロックダウンや外出自粛を背景とした生活様式の変化、アジアを筆頭とする新たな市場開拓が奏功した格好で、日本での会員数も500万人(2020年8月末時点)を超えた。

 確かに、肝いりで投入されたオリジナルドラマ『今際の国のアリス』が配信開始から1カ月足らずで1800万世帯(全世界)に視聴され、『新聞記者』『幽遊白書』といった注目タイトルの製作が次々と発表されるなど、エンタメ産業におけるNetflixの存在感は、日本でも確固たるものになった感がある。

 そこで気になるのは、これまで日本のメディア業界の雄として君臨してきたテレビ業界の反応だ。実のところ、15年2月にNetflixが日本市場への進出を表明した際、テレビ業界は“ネトフリ脅威論”に揺れた。「テレビ局の猶予はあと5年」「今度こそ『テレビ崩壊』」といった見出しが、あちこちのニュースサイトに躍った光景を記憶している人もいるだろう。けれども“テレビの寿命”とうたわれた5年がとうに経過した現在、広告費収益の陰りは指摘されて久しいものの、テレビはいまだに健在だ。

 隆盛するNetflixと、斜陽といわれるテレビ業界。この対照的なメディアの先行きを、業界で生きる人々はどう見るのか。本稿では、各社のテレビマンを取材。悲観論だけにとどまらない、多彩な分析が浮かび上がった。

比較にならない予算規模──クオリティは雲泥の差

 テレビマンは特殊な人種だ。長年にわたり、テレビは名実ともにキング・オブ・メディアだった。影響力や収益性は比類なく、テレビマンたちはテレビ制作という仕事に強烈なプライドを持ち、出版やネットといった他のメディア関係者に対して見下した感情を持つ者が少なくない――こんな認識がメディア業界では一般的だった。だからこそ、ドラマプロデューサーのA氏が、「テレビはNetflixに負け続ける」と危機感を持った発言をしたことには、大きな変化を感じるだろう。

「まずネトフリとテレビでは、ドラマ一本にかける予算が圧倒的に異なります。たとえばテレビのキー局がゴールデンタイムで放送する連続ドラマの場合、予算は1話3000万円から4000万円ほど。一方で、『今際の国のアリス』などは1話に1億円から2億円をつぎ込んでいる回もあると聞きます。結果として、圧倒的なクオリティになっている」(A氏)

 ここで問題となるのは、テレビ局のビジネスモデルの構造上、これ以上の予算投入が不可能であることだという。

「Netflixとテレビ局ではビジネスモデルが根本的に異なります。Netflixはサービス加入者から月々の会費を徴収するB to Cのビジネス。一方でテレビ局は番組を製作し、CMの枠をスポンサーに売るB to Bのビジネスです。スポンサーに販売するCM枠の価格は視聴率などによって決まるわけですが、視聴者は有限だから販売価格にも自ずと限界がある。その限界値が3000万円から4000万円なのです。『半沢直樹』(TBS系)のようなメガヒットが確約された作品であれば、もう少し膨らむこともありますが、あくまで例外的なケースです」(同)

 莫大な予算を投入すればクオリティの高い番組になるのは確かだろう。しかし、テレビが過去に生み出してきた国民的ヒット作には低予算のものも少なくない。例えばテレビ東京系の『孤独のグルメ』は1本あたり約300万円ともいわれる。そうしたコスパの良い番組制作にシフトすることでNetflixと渡り合うことはできないのか。

「低予算の作品がヒットしたというのは結果論にすぎません。ヒットを出すというのは確率の問題で、予算をかければかけるほどヒット作が誕生する確率が高まるという原則がある以上、多くの予算を投じられるプレイヤーが強いという構図は揺るがない。Netflixもこれを熟知しているからこそ、ここに来て次から次へと新作を制作している。水面下で進めているプロジェクトも、膨大な数になるはずです」(同)

 視聴者がより良い映像体験を求めているならばテレビから離れ、Netflixへと流れていくというシナリオはもっともらしい。しかし、Netflixとテレビの最大の違いは、前者は有料サービスであり、後者は基本的に無料であることだ。これはテレビにとって大きな強みといえそうだが、この点はどうか。

「確かに映像配信にお金を払うという文化に馴染みが薄い日本において、Netflixが定額制であることを理由に、テレビのほうを選択し続ける視聴者がいることは考えられなくもない。しかし、Netflixのベーシックプランは月990円(税抜)とかなり安価です。だいぶ昔の話ですが、ペットボトル入りのミネラルウォーターが普及し始めた頃、『水にカネを出すなんて』と拒絶する人が大勢いました。現在では、抵抗感がある人なんていませんよね。そう考えれば、映像コンテンツに課金をするという生活習慣がより一般的になっていくのは自然なことだと思います」(同)

 加えてA氏が危惧するのは、テレビ業界からの人材の流出だ。潤沢な予算があり、地上波と比べて幅広い表現が可能なNetflixは、俳優はもとより脚本家、カメラマンなどあらゆるクリエイターにとって魅力的な環境であるという。

「Netflixが近年主力として打ち出してくる作品は、投じた予算の分だけのおもしろさを表現できている。首に巻きつけた爆弾が爆発し、序盤から活躍していた主要キャラが無残に死亡するなんて描写は、現在の地上波ではとてもできない。しかもそうしたエッジの利いた物語の展開や映像表現を、極めて高い完成度で実現している。それは、それまでテレビを主戦場にしていた一流のクリエイターたちが、あちらへ軸足を移している証しでもあります。このままだとテレビは、そうした動きと連動してますます力が削がれていくでしょう」(同)

 確かに、Netflixが今後制作を発表している作品が擁する俳優・女優陣には、米倉涼子(『新聞記者』)、篠原涼子(『金魚妻』)、綾野剛(『ホムンクルス』)など、地上波ドラマの主役級が顔を連ねる。思い起こせばNetflixが日本進出した当初、同社は多額の出演料を提示して人気俳優・女優を起用しようとしたが、テレビより“格下”であるネット配信に出演するのを忌避する者が多かった。今やNetflix作品に出演することが、一種のステータスになりつつある状況を考えると隔世の感を禁じ得ない。

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