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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.635

文明を知らずに育った野生児たちの衝撃映像!“犯罪多発国”が生み出した都市伝説『野良人間』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

現代人の心を刺激する自然児の叫び

文明を知らずに育った野生児たちの衝撃映像!犯罪多発国が生み出した都市伝説『野良人間』の画像3
洞窟で見つけた女の子と男の子も、言葉をまるで話すことができなかった。

 トリュフォー監督が出演も兼ねた『野性の少年』の野生児は、イノセントさの象徴として描かれた。12歳前後と思われる野性の少年の身元引き受け人となった博士(フランソワ・トリュフォー)は、野性の少年をビクトールと名付け、言葉や文字を強制的に教え込む。ビクトールが言葉や文字を覚えていく姿を博士は喜ぶが、同時にビクトールからはキラキラとしたプリミティブな魅力は消えていくことになる。

 私生児として生まれ、施設で育ったブルーノ・Sが主演した『カスパー・ハウザーの謎』のカスパーは、生後すぐから16~17歳まで地下牢で育てられ、鋭い感性と一般人とは異なる思考や論理方法を持っていた。教会から訪ねてきた牧師たちに「地下牢にいた間、神のような崇高な存在を感じたことがあるか?」と問われたカスパーは、質問の意味を理解することができなかった。暗い地下牢で育ったカスパーは、神という概念を持ち合わせてはいなかった。その後、カスパーは彼の存在を嫌う何者かによって暗殺される。ナポレオンの隠し子だったとも噂された。死後、医学解剖されたカスパーは小脳が非常に発達し、左脳が萎縮していたことが分かっている。

 我々現代人はどうやら社会という名の鋳型の中に流し込まれることで、常識的な人間へと育っていくようだ。見るもの、聞くもの、食べるもの、触るもの、どれも現代社会向けにソフィスティケイトされた大脳を通してから、知覚することになる。その点、『野性の少年』のビクトールや『カスパー・ハウザーの謎』のカスパーは、鋳型にハマることなく本能のままに生きようとした。現代人が失ってしまった感性や能力を彼らは持っているのではないか、そんな憧れを感じさせる存在でもある。

 日本にもかつては「サンカ」と呼ばれる山の民が存在したという。中島貞夫監督、萩原健一主演の『瀬降り物語』(85)は、山で暮らす「サンカ」たちが兵役によって日本社会に組み込まれていく滅びの物語だった。文明から離れて育った自然児たちの叫び声は、現代人が心の奥に隠している喪失感や自然に対する郷愁を刺激するものがある。

 話を『野良人間』に戻そう。本作の舞台となっているメキシコは、激しい社会格差から犯罪が多発し、年間10万人もの人が誘拐されている。事件が起きた1980年代のメキシコは、特に経済破綻が著しい時代だった。誘拐された子どもや、家族から虐待を受けた子どもが、自宅には戻らずに森や山で自然児として生き延びようとしたケースもありうるかもしれない。

 邦題となっている『野良人間 獣に育てられた子どもたち』だが、本作に登場する子どもたちは狼などの野生動物に育てられたわけではない。子どもたちに独自の信仰を教えようとしたフアンが人間の皮を被った獣だったのか、それともフアンと子どもたちの共同生活を認めずに迫害した街の人々こそが獣だったのか。どちらが凶暴で、より残虐だったかは、映画を観た方に決めてほしい。

 

 

文明を知らずに育った野生児たちの衝撃映像!犯罪多発国が生み出した都市伝説『野良人間』の画像4

『野良人間 獣に育てられた子どもたち』
監督・脚本/アンドレス・カイザー
出演/エクトル・イリャネス、ファリド・エスカランテ、カリ・ロム、エリック・ガリシア 
配給/TOCANA 5月21日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
(c)CINE FERAL, S DE RL DE CV
https://nora-ningen.com

 

長野辰次(ながの・たつじ)

長野辰次(ながの・たつじ)

フリーライター。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

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最終更新:2021/05/15 06:00
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