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宮下かな子と観るキネマのスタアたち第12話

小津安二郎「子が親を何度もビンタする」名シーン〝父と息子〟を越えたぶつかり合いの名作『出来ごころ』

「子が親を何度もビンタする」小津安二郎が描いた〝父と息子〟を越えたぶつかり合いサイレントの名作『出来ごころ』の画像1
イラスト/宮下かな子

 こんばんは、宮下かな子です。

 最近、脚のマッサージが日課になりました。というのも、眠れないほど猛烈にふくらはぎが痛くなる夜が続き、とても悩んでいたのです。むくみやすいのか、夜の脚の痛みには以前から悩まされていたのですが、最近はいつも以上に酷くて。どうしたものかと試行錯誤し、今流行りのフォームローラーと、YouTubeで見つけたセルフマッサージを毎日するようになり、何とか改善しました。心なしか以前よりすっきり見える気もします。

 クラシックバレエとチアダンスで培った筋肉質のふくらはぎは学生時代からの悩みでしたが、最近は絵を描く機会も増えたので首肩周りも凝りやすくて。もうぴちぴちじゃないんだから、身体のケアもしっかりしないとな、とようやく考えるようになりました。

 皆さんもリモートワークだったり、以前と生活のリズムや体制が変化していると思いますので、お身体労ってあげてください。

 さて前回は、小津安二郎監督『大人の繪本 生れてはみたけれど』を紹介させて頂きました。久々の小津作品に触れ、改めて小津監督の凄さに改めて圧倒されました。

 この際5月は小津作品満喫なんていうのはどうかしら、と思い、今回は『出来ごころ』(1933年松竹)をご紹介させて頂きます。小津監督、なんと3年連続でキネマ旬報ベスト1位取ってるんです。是非皆さんにも興味を持って頂けるよう、楽しく紹介できたらと思います。

〈あらすじ〉息子と2人暮らしの日雇い労働者喜八(坂本武)。ある日、街で見かけた宿無し仕事無しの春江(伏見信子)に一目惚れし面倒を見るが、春江の心は喜八の仕事仲間である次郎(大日方伝)へ向いていて……。

『出来ごころ』も前回と同様サイレント映画。しかし、傍らで物語の内容を解説してくれる活動弁士の語り口が付いているので、また一味違った楽しみ方ができます。今配信やレンタルで鑑賞できるのは、当時活動弁士として活躍されていた松田春翠さんの心地良いリズム感のバージョン。もうひとつは倍賞千恵子さんと寺田農さんの、男女分かれて台詞部分に声を入れているバージョン。この2つの印象、かなり異なるんです。

 私は松田春翠さんの陽気な語りのほうが好みでしたが、是非活弁を比べて観てみるのも面白いのではないかと思います。

 近年ではスクリーンに映画を流し、そこに今活躍されている役者さんが語りを入れるイベントがあったり、ピアノの生演奏との上映があるみたいですよ! サイレント映画ってなかなか観る機会がないと思いますが、こうして時代を越え、新たに息を吹き返すような楽しみ方ができるのも魅力のひとつですね。いつか、サイレント作品に私が活弁する……なんてことが実現できたら面白いかも。

 物語の始まりは夏の夜の寄席。大勢の客が集まり浪花節を楽しんでいると、ある客が目の前に落ちている財布を拾う。ドキドキしながら中身を見ると何も入っていない。期待外れでぴょんと財布を投げると今度は別の客が拾う、中を見てがっかりしながらまた投げる。すると、主人公・喜八の前にもその財布が回ってきて、「中身はないが自分の財布より良い物なんじゃないか」と財布を入れ替え、元の自分の財布を投げる。それをまた客が拾う…といった大変粋な始まり方。財布のやりとりからリズム感と庶民的な人間臭さが現れていて、まるで目で見る落語のよう。この時代を生きる庶民達の世界観にググッ! と引き込まれていきます。

 冒頭の様子でわかるように、物語は長屋暮らしの下町庶民達の生活を舞台にした人情コメディー。小津監督と言えば、戦後の品のある家族ドラマが思い浮かぶと思いますが、『出来ごころ』は、常に身体をボリボリ掻いているような、汗の匂いが画面から伝わってくるような、そんな人々のお話です。

 喜八は、日雇い労働者として働き、妻に先立たれ息子を一人で育てています。教養もなく、だらしない性格なのですが、いつも明るく人情味の厚い良い男なんです。一目惚れした女に鼻の下を伸ばしたり、その女のいる食堂へ通い仕事を休んだり、振られれば酒に溺れたり。周囲の人間の手を焼かせる存在なのに、これがどうも憎めない男。周りが放って置けない愛されキャラクターなのです。

 これまで当連載で紹介した作品でいうと『蒲田行進曲』の銀ちゃんのような。分かりやすくいうと『男はつらいよ』シリーズの寅さんのような。どうしようもないけど放って置けない、周囲を巻き込んでいくキャラクター性は、いつの時代でも変わらず視聴者に愛される主人公像なのだと思います。

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