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ドキュメンタリー映画『想像』公開

世界に衝撃を与えた劇団チェルフィッチュに密着したドキュメンタリー 私達が失った「想像」を取り戻す演劇の裏側

文=萩原雄太(はぎわら・ゆうた)

世界に衝撃を与えたチェルフィッチュに密着したドキュメンタリー 私達が失った「想像」を取り戻す演劇の裏側の画像1

 太田信吾は、これまで12カ国で配給された『わたしたちに許された特別な時間の終わり』や、東京国際映画祭の「日本映画・ある視点」部門に選ばれた『解放区』などを監督してきた人物。映画監督であると同時に、舞台俳優としても様々な作品に出演している太田が撮影したドキュメンタリー映画『想像』は、そんな、映画監督と舞台俳優という領域を横断する彼でなければ作れなかった作品だろう。

 本作では、かつて太田も俳優として出演していた作品『3月の5日間』のリハーサルから本番までに密着している。チェルフィッチュの演出家・岡田利規によって2004年に創作された本作は、03年に起こったイラク戦争の5日間を、渋谷のラブホテルで過ごした男女の話。だが、一般的な演劇とは異なり、舞台上で展開されるのは、その辺にたむろする若者の言葉をそのまま切り取ったかのような言葉と、それに勝るとも劣らないダラダラとした奇妙な身体の動き。そんな、日本のみならず世界中の演劇シーンに影響を与えている作品だ。

 『三月の5日間』は、こんなセリフから始まる。

「それじゃ『三月の5日間』ってのをはじめようと思うんですけど、5日間のまずその第一日目ですけど、あ、これは2003年の3月の話なんですけど、朝起きたら、あ、これはミノベくんって人の話なんですけど、ホテルだったんですよね、朝起きたら、あれなんでホテルにいるんだ俺って思ったんですけど、しかも隣に誰だよこいつ知らねえっていう女がなんか寝てるよって思ったんですけど……(以下略)」

 太田による『想像』は、2017年に行われた『三月の5日間』 リクリエーションのオーディションから密着している。25歳以下の若手俳優だけでつくられたこのバージョンでは、俳優だけでなく台本も書き直され、新たな形での作品が提示されている。

 なかでも、太田が密着するのが、先に引用した冒頭のセリフを喋る板橋優里だ。

世界に衝撃を与えたチェルフィッチュに密着したドキュメンタリー 私達が失った「想像」を取り戻す演劇の裏側の画像2

 ただし、太田が生み出した『想像』というドキュメンタリー映画は、一般的なドキュメンタリー映画とは全く異なった構成を採用している。

 通常、演劇の現場に密着したドキュメンタリーと聞けば、稽古場で行われる感情的なやり取りや、それを通して成長する俳優、そして作品が上演されるという大団円を予想する。けれども、太田の構えるカメラは、そのような「人間」や「物語」に対して密着することはない。インタビューもほとんどなく、展開の起伏もない。それどころか、「3月の5日間」という作品の全体像もわからないままに、オーディションの段階から初演、パリ公演まで、ストイックに板橋が演じる冒頭のシーンの稽古と本番、そして岡田によるダメ出しが、20回あまりにわたって繰り返されているのだ。

 そのため、観客がスクリーンの中に見るのは、まるで演劇の稽古場に立ち会ったような地味な稽古の繰り返し。けれども、同じシーンを繰り返しながら想像を積み重ねていく板橋の言葉と身体が強固になっていくにつれ、観客の「想像」が触発され、何もない舞台上に、想像のレイヤーが重ねられていく様子を共有することができるだろう。

 2017年に行われた神奈川芸術劇場での初演を経て、映画のラストを飾るのは、初演から10カ月後に行われたパリ公演の様子。

 ここでの板橋の姿は、初演までの姿とは明らかに異なっている。それまでは、戯曲が生み出す想像にしがみつくように行われていた板橋の演技は、本番を積み重ねることにで、その想像を自分のものにしたことが一目瞭然。それによって、何も変わっていないはずの舞台上の空間が、鮮やかに変わる。想像が、人や空間をこんなにも豊かにできるのか。

 この映画の観客は、そんな「想像」の効果に驚くだろう。

世界に衝撃を与えたチェルフィッチュに密着したドキュメンタリー 私達が失った「想像」を取り戻す演劇の裏側の画像3

 本作冒頭、岡田利規は彼の使う「想像」という言葉の意味を次のように説明する。

「僕がもしメッセージがあるとすれば、想像を持てというこれだけなんですよ。あらゆるレベルで。演劇を見るのもそうだし、生きていく上でもそうなんだけど」

 「三月の5日間」が描くイラク戦争以降、従軍取材が可能となったことによって、最前線の様子が映像として伝わってくることが当たり前となった。それによって、戦争報道は刺激的になっていく一方で、その背後に対する想像は失われていく。

 映画の中で、2度にわたってイラク戦争のシーンが挿入されているのは、この戦争が『3月の5日間』の物語に関係しているからだけではないだろう。暗視カメラが捉えたイラク戦争の銃撃シーン。その閃光の背後にはいったい何があるのか? 繰り返される板橋優里のパフォーマンスを通じて、「想像」が、生きる上で不可欠であることがわかるだろう。

 なお、「三月の5日間」の全編は、国際交流基金のYou Tubeで配信されている。想像だけによって構成された舞台の様子を味わってほしい。

映画『想像』
5月28日から東京・アップリンク吉祥寺、29日から神奈川の横浜シネマ・ジャック&ベティほか順次公開。
監督:太田信吾 出演:板橋優里 岡田利規 配給:アルミード
ツイッター:@sozo_movie

萩原雄太(はぎわら・ゆうた)

萩原雄太(はぎわら・ゆうた)

演出家・劇作家・フリーライター。演劇カンパニー「かもめマシーン」主宰。舞台芸術を中心に、アート、カルチャー系の記事を執筆。

Twitter:@hgwryt

ライター実績ページ

最終更新:2021/05/28 12:00

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