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松本人志、20年ぶりのコントと地続きの日常と狂気

設楽統「松本さん、病んでますか?」

 毎年コントの日本一を決めている『キングオブコント』(TBS系)。そのスピンオフ番組として、12日に『キングオブコントの会』が放送された。出演者は大会の審査員を務めている松本人志、さまぁ~ず、バナナマンのほか、歴代のチャンピオンやファイナリストたちの一部だ。約3時間の番組内で、彼らによる12本のコントが披露された。

 この番組、事前の予告で「松本人志が民放で20年ぶりにコントを披露する」という点が強くアピールされていた。約10年前の2010~2011年にはNHK総合で『松本人志のコント MHK』が放送されていたけれど、民放では2001年放送の『ダウンタウンのものごっつええ感じスペシャル』(フジテレビ系)以来という計算らしい。『史上空前!! 笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ』(TBS系)で、内村光良や三村マサカズなどとコントをやっていたこともあったけれど、あれはイレギュラー扱いなのだろう。

 と、「20年ぶり」という数字にはあれこれ難癖をつけることはできるのだけれど、それもこれも、「松本人志がコントを披露する」ことへの注目度の高さゆえだろう。何年ぶりであろうと、彼の本格的なテレビコントが久しぶりであることには違いない。そして、その注目度の高さゆえに、披露されるコントが彼の“衰え”を印象づけるのではないかとSNSで事前に不安視されていたのもまた、仕方がなかったことなのかもしれない。

 松本の新ネタは2本。総勢10人の芸人が参加した1本目の「おめでとう」は、松本演じる女性が女友だちを呼んで何かしらのパーティーを開催するもの。松本は終始「おめでとー!」などと叫ぶ。パーティーに招かれた女友だち3人もそれに調子を合わせて「おめでとー!」と言っている。けれど、友人たちは誰も何のお祝いなのか理解していなくて──というもの。

 バイきんぐの小峠英二と1対1で演じた2本目のコントのタイトルは「管理人」。ある日の夕方、小峠が演じる団地の管理人が、松本が演じる女性の住む部屋に福岡土産の明太子を届ける。しかし、女性は扉をなかなか開けようとしない。チェーンをしっかりとかけ、そこから顔をのぞかせるばかりだ。連打されるチャイム。繰り返されるお土産の説明。何度も閉められる扉と鍵の音。しびれを切らした管理人が部屋を覗くと、そこには──というもの。

「松本さん、病んでますか?」

 2本目のコントを見終えたバナナマンの設楽統がそうコメントしていたけれど、いずれも安易とは思いつつも“狂気”という言葉で形容してしまいたくなるようなコントだ。「おめでとー!」の連呼なり扉の開け閉めなり、同じ動作の反復がいつしか正常と異常の反転をたぐりよせていく。ただ、2本ともコントの始まりはセットの中ではなく、舞台となるマンションや団地などの外観を遠景で捉えたショットから。そんな始まりが、”狂気”がコントという非日常の世界の中に閉じたものではないこと、日常と隣合わせであることを予示しているようにも見える。

 いずれにせよ、松本人志の新作コントは2本とも面白く、他のコントとは一線を画していて、“衰え”など感じさせないものだった。少なくとも私はそう思った。

 以前、別の番組で松本がこんなことを語っていたことがある。休みの日は何をしているのか? そんな質問を後輩芸人から投げかけられたときのことだ。松本はこの問いに「この先ないであろう問題を考えてる」と答えた。

「バカみたいな発想ってあるやん。それを俺、今でもやってんのよ。それのバラエティ版を今でもやってんのよ。こんなことになったらどうしようかとか」(『人志松本の酒のツマミになる話』フジテレビ系、2021年5月21日)

 彼は休日になると自分が借りている事務所のようなところへ行き、ひとりの時間を作るらしい。そしてそこで、目下の番組の企画を考えたりするのではなく、「急に文春が来たらどうするか」「急にみのもんたにヘッドロックされたらどうするか」などと、自問自答の大喜利のようなことを繰り返しているのだという。そのまま頭の中で考え続け、気づいたら夕方になっていたりするらしい。

 センスを更新するために毎年単独ライブをやる。それと同じような作業が、彼の生活の中で長年繰り返されてきたということだろう。

 休日のエピソードを語った後、松本は「もうしゃあないねん。もうそういう病気なのよ」と笑った。なるほど、“狂気”は日常と隣合わせだ。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2021/09/21 11:37
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