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リングス旗揚げ30周年記念 短期集中連載『天涯の標』

【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 最終回】格闘界に放たれた進化する遺伝子たち

写真=尾藤能暢

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格闘王・前田日明は1999年に引退。最後の相手に選んだのはロシアの「英雄」アレキサンダー・カレリンだった。グレコローマンレスリング130キロ級で3連覇を果たした規格外の傑物。無根拠な「400戦無敗」を受容してはばからない「柔術家」ヒクソン・グレイシーとは比較にならない実績と名望を誇る(プロでのファイトマネーの金額を除く)。
そんなカレリンをリングスマットに引き上げたのはネットワークの力だった。同年開催の「WORLD MEGA BATTLE TOURNAMENT~KING of KINGS~」は優勝賞金20万ドルのトーナメント。パウンドを禁じたルールと、数多の強豪の参加で格闘技界に一石を投じる。だが、時流はリングスに優しくはなかった。新興勢力であるUFCやPRIDEが栄華を極める一方、比類のない運動体は徐々に失速していく――。

2年間の隠遁生活の先にあったもの

 そして、2002年。WOWOWとリングスとの放映契約が終了する。前田日明はリングスを「いったん清算する」と発表した。

 この時点でオランダ、ジャパン、ロシア、グルジア、ブルガリア、オーストラリア、イギリス、USA、ブラジル、リトアニアの10カ国がリングスネットワークの傘下となっていた。

 〈 エンターテインメントとして割り切ってお金儲けのためだけにやってたら、少しは財産を残せたかもしれない。都内にビルの1軒でも建てられるぐらいのお金はあったでしょう。でも、全部海外にばら撒きました。一銭も残らなかった。しょうがなかったです。いろいろね。

 WOWOWがいなかったら、リングスは継続できない。歴史に「if」はないと思います。でも、桑田瑞松さん(WOWOW元取締役)がそのままずっと続けてやってくれてたら、リングスはまた全然別の意味で大きくなっていたかもしれない。もしかしたら、とんでもないものになってたかもわからないですね。旗揚げのころから桑田さんは「日本発の世界に通用するコンテンツにしよう」と言ってくださって。すごく理解してくれました。〉

「前田日明の最後の進化を見届けてほしい」

 1991年の旗揚げを前にした記者会見で前田は明言した。リングスを通過することで前田はどんな進化を遂げたのだろう。

〈 UWFまでは「一緒にいる奴を食わすために何とかしよう」とか、そんなことばっかり考えてた。リングスになって、職業という意味でやっと「プロ」になれました。「ビジネスを成功させよう」と。リングスは仕事としてやれた気がします。〉

 日本国内では活動を停止したリングスだが、リトアニア、ロシア、オランダなど海外では大会が継続。日本ではリングス出身のスタッフが運営するZST(KoKルールを採用した格闘技イベント)が開催され、その系譜は受け継がれていく。

 一方、前田は隠遁生活に入る。ほぼ2年間、釣りに勤しむ日々を過ごした。

 2005年、新日本プロレスを出奔した上井文彦が新団体「ビッグマウス」の設立を画策。隠棲中の前田を表舞台に引っ張り出した。

 ほぼ時を同じくしてK-1の権利保持者(当時)で正道会館館長の石井和義は中量級に焦点を絞った総合格闘技イベント「HERO’S」を企画。スーパーバイザーとして前田に白羽の矢を立てた。

 前田は当時、「総合格闘技でも通用するプロレスラーを作る」と発言。UWFから追ってきたファンを狂喜させた。だが、上井の不明朗な金銭処理をめぐって前田は新団体を離脱。総合に通用するレスラー育成は頓挫した。

 〈 「ゴッチさんの名誉を回復したい」という思いがあったんです。髙田(延彦)がああやって負けた(1997年10月11日に東京ドームで行われた格闘技イベント「PRIDE.1」でヒクソン・グレイシーに敗退)とき、事もあろうにカール・ゴッチの名前を出した。「ゴッチから学んだ技術は何も通用しなかった」とか言って。

 全部自分の責任ですよ。「お前がびびっただけの話じゃないか」って。

 ゴッチさんの技術があったおかげで俺はリングスを作れた。世界でいろんな選手とスパーリングしたけど、誰にも取られませんでしたよ。「ああ、やってよかったな」って思うことがいっぱいあった。それなのに、「何を言ってんだ、お前」って。「お前がそんなにすごいんかよ」って話です。〉

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