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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.653

モンスタークレイマーとヘタレ店長との壮絶戦!古田新太と松坂桃李が演じる不寛容社会『空白』

実在の事件をモチーフにした吉田恵輔監督

モンスタークレイマーとヘタレ店長との壮絶戦!古田新太と松坂桃李が演じる不寛容社会『空白』の画像2
ヤクザと闘う刑事から、ヘタレ店長に。松坂桃李の演技の振り幅がすごい。

 スーパーマーケットへの嫌がらせが相次ぎ、このままでは風評被害によって営業が続けられなくなってしまう。他の従業員たちの生活を守る立場でもある店長・青柳は、テレビ局の独占インタビューに応じることにする。万引きが頻繁に起き、以前から頭を悩めていたことなど店側の事情を説明する一方、ひとりの少女を事故死へと追い詰めてしまったことに対して真摯に謝罪の想いを語る青柳だった。

 ところが、放送されたテレビを見て、青柳は愕然とする。インタビューは肝心な部分がカットされた上に、取材が終わってから青柳がホッとした表情を浮かべている様子が画面に大々的に映し出されていた。これでは、中学生が亡くなったことを笑いながら語っているサイコパスにしか見えない。より高い視聴率を求めるテレビ局側の恣意的な編集だった。青柳はもはや誰を信じていいのか分からなくなってしまう。

 孤立無援状態となる青柳には、ひとりだけ熱心な味方がいた。スーパーで働く女性従業員の草加部(寺島しのぶ)だ。休日はボランティア活動にいそしむ草加部は、嫌がらせのように店に姿を見せる添田のことが許せない。正義感の強い草加部は、青柳店長が冤罪であることを声高に主張するが、そんな彼女のことが青柳は次第にうとましくなってしまう。間違ったことは許さないという草加部の言動は、グロッキー状態の青柳にとっては逆に重荷となっていたのだ。「いい人」だったはずの青柳は、ボロボロに崩れていくことになる。

 制作会社「スターサンズ」とは、新井英樹原作コミックの実写化『愛しのアイリーン』(18)に続いて2作目となる吉田監督。本作は吉田監督のオリジナル脚本だが、物語のモチーフとなったのは実際に起きた事故だ。約20年前、古書店で万引きした少年は警察に通報されたことから逃げ出し、逃走中に死亡している。警察に通報した店長は非難され、古書店は閉店へと追い詰められた。吉田監督はこの事故のことがずっと気になっていたそうだ。亡くなった少年、閉店に追い込まれた店長にとって、何が救いになるのかを考え、物語化することが企画の始まりだった。

 青柳のインタビュー内容がテレビ局側によって歪められてしまうエピソードは、2005年に長野県の高校で起きた「バレーボール部員自殺事件」がモチーフだろう。井上真央主演ドラマ『明日の約束』(フジテレビ系)の元ネタにもなったこの自殺事件は、マスコミのミスリードによって当初は部活内でいじめがあり、その事実を学校側は隠蔽しようとしているとバッシングが起きた。校長が行なった記者会見は、テレビ局によって部分的に切り取った形に編集され、さらに非難の声が高まる結果となった。しかし、この事件は後に自殺した高校生は家庭内でネグレクトに遭っていたことが明るみになっている。バレーボール部員たちは仲間を自殺で失っただけでなく、誹謗中傷を浴びた上に、貴重な青春時代を裁判に時間を割かれることになった。

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