深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.663

ネット時代の“仁義なき戦い”を描いた野心作! 名簿ビジネスをめぐる和製ノワール『JOINT』

ギラギラした野心をたぎらせる無名キャストたち

ネット時代の“仁義なき戦い”を描いた野心作! 名簿ビジネスをめぐる和製ノワール『JOINT』の画像3
ベンチャー企業を石神は買収し、投資家、コンサルタントを名乗ることに

 犯罪にはその国の社会状況が如実に現れる。米国に比べて治安がよいとされる日本だが、法の網を抜けるように半グレが勢力を伸ばし、暴力団はフロント企業を装って表社会に進出するようになった。不法就労せざるを得ない在日外国人も少なくない。表社会と裏社会を隔てているグレーゾーンは、日本全体を覆うように広がりつつある。

小島監督「ヤクザも30年前と同じようなシノギはできなくなり、日本の犯罪構造は独特なものになってきているように感じます。半グレという存在も日本だけのものですし、電話詐欺は日本人同士に信頼関係があるからこそ起きている犯罪でしょう。米国ではもっと本格的な投資詐欺が主流です。IT時代になって新しい犯罪も生まれ、その手口も進化してきています。国や文化の違いによって、犯罪も異なるものになっているように感じます」

 主人公・石神を演じた山本一賢は本作が俳優デビュー作。彼をはじめ、小島監督がオーディションで選んだコワモテなキャストの半数以上は、演技初挑戦となる無名の新人たちだ。「ここから、のし上がってやる」。そんなギラギラした野心的な目をキャストたちはしている。ロケ撮影中は、警察官から職質されることもたびたびあったらしい。また、武闘派ヤクザ・荒木を演じた樋口想現は、劇中の刺青を入れるシーンで本当に彫っている。

 表社会で生きることに憧れる石神は、ベンチャー企業のエンジニアたちに目をかける一方、韓国系の友人・ジェンギとは手を切り、裏社会から足を洗おうとする。石神のドライな一面が描かれる。格差社会から抜け出すことに懸命な石神だが、やっていることは大手企業が不況になると外国人労働者や派遣社員を真っ先に切り捨てるのと同じだ。『JOINT』の主人公・石神は、今の日本社会をリアルに反映した人物だと言えるだろう。

 なお、本作の題名である「joint」には、つながり、映画、大麻、娯楽施設、賭博場、刑務所など、さまざまな意味が含まれている。その人の捉え方次第によって、賭博場にも刑務所にも映るのが現代社会なのかもしれない。

 

『JOINT』
監督/小島央大 脚本/HVMR
出演/山本一賢、キム・ジンチョル、キム・チャンバ、三井啓資、樋口想現、伊藤祐樹、櫻木綾、鐘ヶ江佳太、林田隆志、宇田川かをり、平山久能、二神光、伊藤慶徳、片岸佑太、南部映次、尚玄、渡辺万美
配給/イーチタイム 11月20日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中
©小島央大/映画JOINT製作委員会
https://joint-movie.com

最終更新:2021/11/26 15:08
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