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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.667

「人生のエキストラ」で終わってもいいのか? 園子温監督作『エッシャー通りの赤いポスト』

映画監督は若者の生き血を吸う吸血鬼

「人生のエキストラ」で終わってもいいのか? 園子温監督作『エッシャー通りの赤いポスト』の画像3
園子温監督の故郷・豊橋市の商店街でロケ撮影が行なわれた

 もう少しで三途の川を渡るところだった園子温監督にとって、無名の若者たちと一緒に『エッシャー通りの赤いポスト』を撮ることはリハビリにもなったに違いない。故郷・豊橋市の商店街を丸ごと使って撮影が行なわれた本作は、園子温監督の商業デビュー作『自転車吐息』(90)のセルフリメイク作だとも言えるだろう。どちらも、居場所のない若者たちが映画制作によって生きる道筋を見つける物語だ。

 原点回帰を果たした園子温監督は、2022年はいよいよハリウッドで新しい企画に挑むことが決まっている。日本国内で撮影された『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』は試運転に過ぎなかった。

 どん底から何度でも蘇る園子温監督を見ていると、映画監督は吸血鬼のような存在だなと思えてくる。スターに憧れる若者たちの新鮮な生き血を吸うことで、映画監督と作品は永遠の命を保つことになる。映画監督に生き血を吸われた若者は、スクリーン上で妖しい輝きを放ち始める。そして、映画館の暗い闇から離れることができなくなってしまう。

 園子温監督の正体は、カメラと言霊を操るヴァンパイアだ。若くて、活きのいい俳優が大好きで、モラルから逸脱した虚構世界の支配者でもある。『ヒミズ』(12)からは染谷将太、二階堂ふみ、『TOKYO TRIBE』(14)からは清野菜名、『愛のむきだし』からは満島ひかり、安藤サクラに加え、ちょい役だった綾野剛と松岡茉優も後にブレイクすることになった。園子温監督が魔力を発揮するとき、それは新しいスターが目覚める瞬間でもある。

 「騙し絵」のような映画『エッシャー通りの赤いポスト』から、あなたは何を見つけるだろうか。

 

『エッシャー通りの赤いポスト』
監督・脚本・編集・音楽/園子温
出演/藤丸千、黒河内りく、モーガン茉愛羅、山岡竜弘、小西貴大、上地由真、縄田カノン、鈴木ふみ奈、藤田朋子、田口主将、諏訪太朗、渡辺哲、吹越満
配給/ガイエ 12月25日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会
https://escherst-akaipost.jp

最終更新:2021/12/24 12:28
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