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“異例”尽くしの大河『鎌倉殿の13人』は「ワナビー」が「セレブ」を脅かす物語?

頼朝・政子らの「生々しい男女のドラマ」も描かれるか

“異例”尽くしの大河『鎌倉殿の13人』は「ワナビー」が「セレブ」を脅かす物語?の画像3
江口のりこ演じる亀(ドラマ公式Twitter)より

 また、源頼朝は、渋沢栄一も顔負けの色好みの男性でした。渋沢を主人公とした『青天を衝け』では、彼の女性関係はほとんど描かれませんでしたが、『鎌倉殿』では頼朝の華やかな女性関係がかなり克明に描かれるものだと考えられます。

 というのも、例の『北条ファミリーが語る!』の中で、「北条政子・義時の父である北条時政(坂東彌十郎さん)が、頼朝の女性関係のトラブルに怒って鎌倉を出ていってしまったシーンがあったけど、あれは史実だったんだよね」といったトークがあったからです。

 妻が妊娠中、かまってもらえないのが寂しいのか、浮気をしてしまうダメな夫は現代日本でもちらほらいるようですが、頼朝もその一人でした。

 時政の後妻・牧の方(ドラマでは宮沢りえさんが演じる「りく」)が、頼朝の浮気を政子に告げ口したので、彼女は激怒します。しかし興味深いことに、政子の怒りの矛先は主に、夫ではなく、夫の浮気相手である「亀の前」(ドラマでは江口のりこさん演じる「亀」)という女性に向かいました。政子は、牧の方の縁者の牧宗親(まき・むねちか)たちに命じ、亀の前の住む家をぺちゃんこに破壊させるなど、実に恐ろしい報復をしています。もっとも、これに頼朝は反省するどころか逆ギレし、亀の前の住居を壊した牧宗親に対し、彼の長い髪の毛を束ねた「髻(もとどり)」の部分を切り落とすなど、手ひどい暴力を振るったのでした。これは当時の基準ではひどい侮辱に相当する行為で、『吾妻鏡』によると、牧宗親は泣きながら逃げ去ったそうですよ。

 政子の父・時政はそんな頼朝に愛想を尽かし、鎌倉を出て、本領・伊豆国まで帰ってしまったことがありました。こうした「痴情のもつれ」を物語る事件は、『青天を衝け』のクリーンな登場人物に慣れてきた視聴者の目には、物珍しく映るかもしれません。生々しい男女のドラマが『鎌倉殿』には期待できる気がします。

北条義時ら地方武士=ワナビーが朝廷のセレブたちと対立する物語に?

 さらに、『鎌倉殿』は、「セレブ」と「ワナビー(=セレブになりたいと願う人たち)」の対立を描いた物語になるのでは?とも思われます。

 当時の「セレブ」とは、京都の朝廷の人々のこと。流罪で関東に流されて来た頼朝も一応「セレブ」の枠内に位置する人物でしょう。一方、「ワナビー」といえるのは、北条義時など地方出身の武士たちです。しかしこの時代、北条家などの“田舎侍”は、「セレブ」側から見ると実は武士ですらありませんでした。平安末期の価値観で「武士」と呼びうるのは、「弓馬の芸」に秀で、宮廷社会のマナーをも熟知した、平家の公達たちのような“軍事貴族”だけ。源頼朝やその親族なども「武士」に含まれましたが、一方で当時の北条家のような、宮廷社会に縁のない地方豪族は「武士」には含まれず、厳密には「武士の使用人」にすぎない存在でした。

 こうした時代背景を考えると、自分たちもいつかは成り上がりたいという野望を抱いた「ワナビー」の北条義時が、同僚である他の「ワナビー」たちを退け、京都の「セレブ」たちを脅かす地位を得るまでの物語……『鎌倉殿』はそういう作品になるのかもしれません。放送開始を楽しみに待ちましょう。

 

<過去記事はコチラ>

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 16:53
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