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宮下かな子と観るキネマのスタアたち31話

『ボクたちはみんな大人になれなかった』物語が問いかけるあまりに曖昧な“大人という状態”

文=宮下かな子(みやした・かなこ)

『ボクたちはみんな大人になれなかった』物語が問いかけるあまりに曖昧な大人という状態の画像1
イラスト・宮下かな子

 気鋭の俳優・宮下かな子さんによる映画コラム『宮下かな子と観るキネマのスタアたち』がリニューアル! 宮下さんが今自分の周りで話題になっている中で興味を持った作品を取り上げていただきます。そこで今秋は作家・燃え殻原作の映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』です。

 26歳。今の私の年齢で母は結婚をし、翌年私を産んだ。小学生の頃プロフィール帳というのが流行していて、当時よく友達と書き合いっこしていたのだが〝何歳で結婚したい?〟という項目に、私はいつも、26歳、と迷わず書いていた。きっと母を真似てそう書いていただけだが、それは今でもはっきりと記憶にあって、26、という年を、何となく節目のように感じていた。残念ながらその頃の理想は叶わず、26歳はさらりとやってきて、半年後にはもう、母が私を産んだ年になる。
 
「子供の頃、今の自分になりたいって思ってた?」

 これは、今回ご紹介する2021年11月から劇場公開及びNetflixにて配信中の映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』で、主人公が投げかけられる台詞であり、この言葉には私自身も胸が痛んだ。結婚はまだしも、仕事柄不安定な未来に、常に焦りや自分に苛立ちを感じてしまう毎日。私はこのままで良いのだろうか。大人ってこんなだったっけ。大学を卒業し、社会人となってからの私は、何度もそんなことを考えてしまっている。

 『ボクたちはみんな大人になれなかった』との最初の出会いは書店のランキングコーナーだった。原作者は燃え殻さん。タイトルを見て、今の自分が共感できるものがある気がして、そして帯に纏った「美味しいもの、面白いものに出会った時、これを知ったら絶対喜ぶなという人が近くにいることをボクは幸せと呼びたい。」という言葉に惹かれて手にした1冊だった。

 物語は、森山未來さん演じるテレビ局の美術制作で働く佐藤誠の、1995年から現在まで、ちょうど私が生きた年数と同じ26年間が描かれている。ヒロイン伊藤沙莉ちゃん演じる誠の恋人・かおりは、結婚などのいわゆる〝普通〟を嫌い、そんな彼女に誠は影響を受けていたのだが、数年後、別れたかおりが〝普通の幸せ〟を手にしている姿を偶然SNSで見つけ、過去の自分と向き合っていく話だ。かおりの心境の変化にも、そして、自分だけ置いていかれたような気分になっている誠の切なさにも、今の私はどちらにも共感できた。

 結婚や出産は、果たして〝普通〟なのだろうか。

 普通じゃないことへの憧れは、正直上京したての私の中にもあった。きっとそれも女優を目指した理由の1つだったし、更に、仕事を始めてすぐご一緒したある方に「女優は結婚しないで、私生活がわからないほうが良い。」と言われたことがあり、その言葉にかなり影響を受けた私は、数年前まで、自分の人生から結婚という選択肢を除外していた。

 しかし、私生活での経験がお芝居や人柄に表れることを実感出来るようになったことや、SNSが普及して、親近感のある存在が支持されるよう変化している中で、女優=特別という固定概念に疑問を抱くようになり、最近ようやく私も、結婚も素敵なことだと思えるようになった。

 そもそも日本の結婚観も、この26年の間で随分変化していると思う。初婚の平均年齢が上がっていたり、様々な形の結婚が増えた。型に捉われず、人が1人の人間として自由に生きるため、個人の尊重が重視される世の中になっているように思う。もはや〝普通〟と思われていたことの形さえ変化しつつある。

 以前読んだ、吉本ばななさんの著書『おとなになるってどんなこと?』に、〝大人になんかならなくっていい、ただ自分になっていってください〟という言葉があった。〝普通〟とは〝大人〟とは。その答えは曖昧で分からないけれど、自分の心に素直になること。背伸びせず、かっこつけず、自分のままでいられる居心地の良い場所や人と生きること。それが、歳を重ねていく中で最も大切なことなのではないかと、夜明け前の東京の街中で、涙混じりに笑顔を見せるラストシーンの誠を見て思った。

 幼い頃に思い描いていた未来とは違うし、時代の流れと共に、考え方が変化することもあると思う。その度にこれからも何度も、「大人ってこんなだったっけ」と思うことがあると思うけれど、そんな自分も他人もまるごと受け入れてあげながら生きていけたらいいなぁ。変化を恐れず、常に柔軟でいられる状態が、私の理想の大人だ。

宮下かな子(みやした・かなこ)

宮下かな子(みやした・かなこ)

宮下かな子(みやした・かなこ) 1995年7月14日、福島県生まれ。舞台『転校生』オーディションで抜擢され、その後も映画『ブレイブ -群青戦記-』(東宝)やドラマ『最愛』(TBS)、日本民放連盟賞ドラマ『チャンネルはそのまま!』(HTB)などに出演。現在「SOMPOケア」、「ソニー銀行」、「雪印メグミルク プルーンFe」、「コーエーテクモゲームス 三國志 覇道 」のCMに出演中。趣味は読書、イラストを描くこと。Twitter〈@miyashitakanako〉Instagram〈miya_kanako〉

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【アミューズWEBサイト公式プロフィール】

最終更新:2022/02/28 18:30

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