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あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#10

小室哲哉とR&B〈1〉デビュー前夜~TRFまで受け継がれたソウルの遺伝子

ダンス・ミュージックの原体験としてのR&B/ソウル

 小室がダンス・ミュージックに関心を持つことになった原体験は、R&B/ソウルだという。15~16歳のときにはディスコ・バンドで演奏していたという彼は、1986年のインタビューで、コモドアーズやクール&ザ・ギャング、アース・ウィンド&ファイアー等から強い影響を受けたことを語っている。小室のルーツといえば、T・レックスやキース・エマーソン(EL&P)といったロック方面については広く知られており、また、シンセサイザーを用いたダンス・ミュージックのクリエイター/プロデューサーの始祖であるジョルジオ・モロダーからの影響も(後年の彼のキャリアに直結するゆえに)ご存知だったファンも多いことだろう。だがそれらと同じくらい、彼の音楽性の根底には、生演奏を基調としたソウル/R&Bの存在があったのだ。

 何より小室は、ディスコが日本社会に浸透し始めた1970年代を若者として過ごした世代でもある。のちに彼は、1990年代に放送された冠番組『TK MUSIC CLAMP』(フジテレビ系)でのブラザー・コーンとの対談の中で、ディスコの現場におけるコモドアーズ「Machine Gun」やヴァン・マッコイ「Hustle」、日本で局所的にヒットしたホット・ブラッド「Soul Dracula」などのステップ(皆で揃って踊る際の振り付け)に言及しているほか、本邦最初期のオリジナル・ディスコソングであるクック・ニック&チャッキー「可愛いひとよ」のレコードを持っていたとも語っている。

TM NETWORKが目指した“日本人なりのファンク”と、小室が得たもの

小室哲哉とR&B〈1〉デビュー前夜~TRFまで受け継がれたソウルの遺伝子の画像2
TM NETWORK『GORILLA』

 こうした小室の“ルーツ”が最初に分かりやすく表出したのが、TM NETWORKのサードアルバム『GORILLA』(‘86)だ。

 本作は、それまでのセールス面の不調を覆すべく、エレクトロ・ポップ的な音楽性から生音主体のダンス・ミュージックへと大胆な転換が図られている。この際に掲げられた有名なコンセプト「FANKS」(Funk, Punk, Fansを組み合わせた造語)の通り、本作ではアヴェレイジ・ホワイト・バンドやクール・アンド・ザ・ギャング、アイズレー・ブラザーズなどを意識したという、ギターのカッティングとブラスの対旋律が効果的に引き立てられた楽曲が多数収録されている。

 先行シングルとしてリリースされた「Come on Let’s Dance」は、元タワー・オブ・パワーのレニー・ピケット(サックス)や、ディスコのリミキサーとして当時著名であったマイケル・バルビエリ(ミックス)も参加している。本曲について当時の小室は「日本人なりのファンク。ボクはもともとディスコ・ミュージックが好きだったし、1986年には、そういうサウンドが出てきてもいいんじゃない?」という自信に満ちたコメントを残している。

 また、小室は「日本語で歌うことでファンクを崩そうと思った」「16ビートのダンス・ミュージックに日本語をのせるのに成功したっていうのが大きかった」とも語っている。その成果が特に表れている楽曲が、細かい譜割りに小室みつ子(西門加里)の歌詞が絶妙にはめ込まれた「PASSENGER」だろう。なお、本曲には宇都宮隆のヴォーカルと同等以上に外国人ヴォーカルによるラップがフィーチャーされているが、その声の主は、のちのUKが誇る音楽ユニット、マッシヴ・アタックの前身にあたるワイルド・バンチのメンバーだった――という伝説があるのも驚きだ。

 『GORILLA』がリリースされた1986年前後にR&Bに接近していた日本のミュージシャンには久保田利伸、大沢誉志幸、鈴木雅之、小比類巻かほるなどがいるが、TM NETWORKのアプローチは、その中でもかなり先駆的な部類に入ると言ってもいいだろう(例えば、久保田利伸が自身のラップを大きくフィーチャーした2ndシングル「TIMEシャワーに射たれて・・・」をリリースするのは、『GORILLA』のリリースから半年先のことだ)。無数のシンセサイザーに囲まれた要塞のようなライブステージの視覚的インパクトから、TM NETWORK時代の小室にはどうしても電子/機械的なサウンドの印象がつきまとうが、このように、実際には非常に肉体的な音楽性を志向していた時期が存在する。しかも、それは彼のルーツに限りなく忠実な選択だったのだ。本作での模索なくしては、次作『Self Control』(‘87)以降のブレイクスルーのみならず、1990年代の“小室ブーム”期におけるさまざまなダンス・ミュージックへのアプローチも、あそこまで鮮やかなものにはならなかったかもしれない。

 小室のキャリアにおいても屈指のディスコ・ソングであるtrf(現・TRF)「Overnight Sensation ~時代はあなたに委ねてる~」(‘95)は、こうした背景のもとで生み出された楽曲である。クラブの現場で各々がキャリアを積んできたtrfのメンバーに「やっとハマったなと、5人が納得してもらえたと思った」と小室自身も語る本曲。アース・ウィンド&ファイアーをはじめとする濃厚なオマージュの数々は、決して片手間の産物ではなく、彼のルーツやTM NETWORK時代に得た知見が惜しみなく注ぎ込まれたものなのだ――ということは、改めて多くの人に知ってもらいたいところだ。

 なお、trfはその後もダンス・クラシック風の楽曲「Love & Peace Forever」(‘96)をリリースしている。本曲のシングルには、1970年代の12インチ盤リミックスを模したような長いブレイクから始まる「70’S MIX」ヴァージョンが収録されており、小室のディスコへの深い愛情が垣間見える素晴らしい内容に仕上がっている。ぜひ「Overnight Sensation」と併せて楽しんでみてほしい。

 次回は、1990年代の“小室ブーム”期における彼のR&B方面の仕事について、具体的な楽曲を多数挙げながらその魅力を解き明かしていこうと思う。

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♦︎
本稿における小室哲哉/TM NETWORKのレアな制作エピソードは、藤井徹貫氏の『TMN 最後の嘘』(ソニー・マガジンズ)を参考にさせていただいた。

本稿で紹介した楽曲を中心に、その他「小室哲哉のソウル/ファンクからの影響」の理解の手助けになりそうな楽曲をまとめたプレイリストをSpotifyに作成したので、ぜひご活用いただきたい。

B’z、DEEN、ZARD、Mr.Children、宇多田ヒカルなど……本連載の過去記事はコチラからどうぞ

TOMC(音楽プロデューサー/プレイリスター)

Twitter:@tstomc

Instagram:@tstomc

ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスター。
カナダ〈Inner Ocean Records〉、日本の〈Local Visions〉等から作品をリリース。「アヴァランチーズ meets ブレインフィーダー」と評される先鋭的なサウンドデザインが持ち味で、近年はローファイ・ヒップホップやアンビエントに接近した制作活動を行なっている。
レアグルーヴやポップミュージックへの造詣に根ざしたプレイリスターとしての顔も持ち、『シティ・ソウル ディスクガイド 2』『ニューエイジ・ミュージック ディスクガイド』(DU BOOKS)やウェブメディアへの寄稿も行なっている。
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最終更新:2023/04/28 16:53
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