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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.678

見世物小屋の人気芸人は上流社会で成功するか? ギレルモ監督の心理劇『ナイトメア・アリー』

闇堕ちする王子を好んで描くギレルモ監督

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スタン(ブラッドリー・クーパー)は若いモリー(ルーニー・マーラ)を連れて、一座から独立する

 見世物小屋の興行を手伝ううちに、大道芸のひとつ「読心術」をスタンは習得する。読心術のカラクリを知ってしまえば「なんだ、そんなことか」と思うが、誰にも話していない秘密を初対面の相手にズバリと言い当てられれば、相手は本当に心を読まれてしまったと信じ込んでしまう。頭の回転が早く、口がうまいスタンは、読心術を使って、見世物小屋に集まった客たちの心理を操るようになる。万能感に酔いしれるスタンだった。

 読心術を教えてくれたジーナにさんざん世話になったスタンだったが、若いモリーに乗り換えてともに一座を出ることに。読心術のノウハウを応用し、より洗練されたショーをスタンは始める。一流ホテルに集まった紳士淑女たちの間で、スタンは「霊能者」として評判となる。だが、ショーマンとしての成功だけでは、スタンはまだ満足できなかった。

 スタンとの生活に幸せを見出すモリーとは対照的に、スタンの上昇志向は止まることがない。そんなスタンの野望を心地よく刺激する「ファムファタール」が、物語中盤から登場する。精神科医のリリス博士(ケイト・ブランシェット)だ。「霊能者」として人気のスタンと、クライアントの過去を詳細に知るリリスが密かに手を組めば、どんなに疑り深い大富豪でも騙されてしまう。

 リリスの協力を得たスタンは、誰もが抱える心の秘密部屋に歩み寄り、丁重にドアをノックする。過去のトラウマに悩む大富豪を、スタンは言葉巧みにコントロールし、大金を捻出させようと企む。もはや大道芸ではなく、詐欺行為である。だが、スタンは表社会での成功を望み過ぎるあまり、深い闇へと堕ちていく。

 ギレルモ監督は、ダークサイドに堕ちてしまった王子たちをたびたび描いていきた。ブレイク作となった『ブレイド2』(02)や、ロン・パールマン主演作『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』(08)は、闇の世界でしか生きられない王子の物語でもあった。優れた才能や恵まれた能力を持っていても、どうしようもなく王子たちは闇へと堕ちてしまう。美しい王子が闇堕ちした姿は、せつないものがある。

 人気エンターテイナーから詐欺師へと堕ちていくスタンも、美しい王子たちのひとりとしてギレルモ監督は哀切を込めて描いている。

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