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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.678

見世物小屋の人気芸人は上流社会で成功するか? ギレルモ監督の心理劇『ナイトメア・アリー』

ジャンル映画出身者であることの刻印

見世物小屋の人気芸人は上流社会で成功するか? ギレルモ監督の心理劇『ナイトメア・アリー』の画像3
ギレルモ監督に原作を薦めたロン・パールマン(画像右)は、怪力男役で出演

 ホラー&ファンタジーのジャンルで成功を収めたギレルモ監督自身の自戒の念を、『ナイトメア・アリー』には感じる。特撮大好きなオタク少年としてメキシコで生まれ育ったギレルモ監督だが、スペインで撮影した『パンズ・ラビリンス』が世界的なヒット作となって以降、美味しい話が山ほど届くようになった。だが、『ホビット』三部作は脚本だけ手掛け、監督は降板するはめになった。ラヴクラフト原作の『恐怖の山脈にて』は、製作中止に追い込まれた。心は10歳児のままのギレルモ監督は、ハリウッドで何度も苦汁を飲まされている。

 ホルマリン漬けの奇形児が、『ナイトメア・アリー』には映し出される。ホルマリン漬けの奇形児は、ギレルモ監督の初期代表作『デビルズ・バックボーン』(01)や『ブレイド2』を思い出させる。本作もアカデミー賞作品賞など4部門にノミネートされ、すっかりハリウッドの顔となったギレルモ監督だが、ホルマリン漬けの奇形児は、ジャンル映画出身者であることを忘れずにいるための刻印ではないだろうか。

 暗い過去はできれば消してしまいたいが、そんな過去を体験したことで今の自分が存在する。過去を捨てて、明るい世界へ走り去ろうとすると、スタンのように闇堕ちすることにもなりかねない。過去を見つめることは、自身のアイデンティティーを確かめる上で大切な行為でもある。

 見世物小屋の住人たちが放つ、妖しい光と闇の世界。恐ろしさと同時に懐かしさも感じさせる。『ナイトメア・アリー』を観ていると、夜祭の見世物小屋に魅了されていた少年時代の記憶がまざまざと蘇ってくる。映画も見世物小屋も光と闇とで構成され、一見客に優しい世界だ。きっと見世物小屋好きが高じて、私は映画ライターになったのだろう。

 

『ナイトメア・アリー』
原作/ウィリアム・リンゼイ・グレシャム 監督/ギレルモ・デル・トロ
出演/ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラ、ロン・パールマン、メアリー・スティーンバージェン、デヴィッド・ストラザーン
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン 3月25日(金)より全国公開
©2021 20th Century Studios.All rights reserved.
searchlightpictures.jp/movie/nightmare_alley

最終更新:2022/05/17 15:40
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