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『ガンパウダー・ミルクシェイク』血しぶきマシマシ甘さひかえめな魅力

図書館をバトルの舞台にした必然性

『ガンパウダー・ミルクシェイク』血しぶきマシマシ甘さひかえめな魅力の画像2
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 「スゴ腕殺し屋の主人公が満身創痍になりながらも少女を守り抜く」という苦戦ぶりは良い意味でストレスとなり、その先にある「逆襲」へのカタルシスへとつながっていく。ボロボロになった主人公は、圧倒的な戦闘力を誇る3人の女性図書館員たちの協力を得ることになるのだから。

 心優しいがトマホークを手にすれば冷酷非情な殺し屋に豹変するカーラ・グギーノ、毒舌家で2丁のハンマーを振り回すアンジェラ・バセット、そして鋼のチェーンを軽々と操るカンフー・マスターのミシェル・ヨーと、ベテラン女優が三者三様の(クセも)強い女性を演じているのがたまらない。さらに、15年前に姿を消した母役のレナ・ヘディ、利発な子どもを演じるクロエ・コールマンもまた魅力的で、アクションだけでなく彼女たちの掛け合いや関係性そのものもまたニヤニヤしながら楽しめるのだ。

 また、「図書館と銃撃戦は相性がいい」というのも思い知らされる。遮蔽物となる本棚が多く、ただドンパチするだけでない「駆け引き」が生まれているのだから。本の中には「隠し武器」があり、その本の内容と銃器の特性がリンクしているように思えるのも面白い。前述した各キャラクターの性格にマッチした、それぞれ異なる見せ場があることにも注目だ。

 なお、ナヴォット・パプシャド監督は「図書館は女殺し屋たちのアジトとしても、彼女たちの別人格としてもぴったり」と考えていたそうで、それは「どんな武器よりも強力な武器、つまり知識があるのが図書館」という発想が根幹にあるという。知識を武器にする女性というメタファーも現代的であるし、図書館という舞台だからこそ楽しいギミックのあるアクション映画になっているというのも嬉しいのだ。

ジャンルの融合や日本リスペクトも

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 ナヴォット・パプシャド監督によると、本作はセルジオ・レオーネ、黒澤明、マカロニ・ウエスタン、フィルム・ノワール、そして侍/浪人というジャンルの融合だと語っている。しかも、アクションシーンで物語とキャラクターの心理的な流れを反映するように、色と光、ファイトスタイルを変えていく工夫もされているそうだ。

 例えば、ボウリング場での最初のアクションはマカロニ・ウエスタン調で、次いでネオンがきらめく香港映画は特にジャッキー・チェン作品を意識していて、誘拐犯たちによる銃撃戦はザラザラした質感も映像も含めマイケル・マン監督作の影響が大きいという。 駐車場での追跡シーンは『ブリット』(68)や『フレンチ・コネクション』(71)のような、往年のカーチェイス映画へのオマージュだそうだ。

 インスパイア元の映画がたくさんあることや、シーンにマッチした音楽(歌詞にも注目!)のセンスはクエンティン・タランティーノ監督の作風に通じるところがある。「ジャンルがごちゃ混ぜ」でありながら、殺し屋を主人公としたアクション映画として一本の筋が通っているのでそのジャンルに詳しくなくても楽しめるし、知っていればさらにニヤニヤできるバランスも見事だ。

 黒澤明や侍/浪人というジャンルだけでなく、主人公が最初に着ていた黒ずくめの衣装が『女囚さそり』シリーズ(72~73)の梶芽衣子を連想させたり、さらに序盤に日本製シリアルや、終盤に日本語が大きく書かれたシャツが登場するなど、妙に日本をリスペクトしたような要素があるのも日本人にとって嬉しいポイントだ。

 ちなみに、ナヴォット・パプシャドが共同監督で手がけていたオムニバスホラー映画『ABC・オブ・デス2』(14)の一編「F:落下」も女性と男性の戦いを描いた作品だったし、『オオカミは嘘をつく』(13)もシリアルな題材ながらエスカレートしていく暴力性やブラックユーモアも存分に込められた内容であるなど、今回の『ガンパウダー・ミルクシェイク』に完全に通じている内容だった。先人の作品のエッセンスをたくさん入れ込みながらも、しっかり独自の作家性がある監督と言えるだろう。

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