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あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#12

小室哲哉はいかに革新的だったか 「渋谷系」も一目置いた、プロデューサーとしての絶頂期

文=TOMC(トムシー)

 ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスターのTOMCさんが音楽家ならではの観点から、アーティストの知られざる魅力を読み解き、名作を深堀りしていく本連載〈ALT View〉。「R&Bプロデューサー」としての小室哲哉に迫った前回前々回に引き続き、稀代のプロデューサーとしての功績を改めて振り返る小室哲哉特集のラストをお届けします。

 

小室哲哉はいかに革新的だったか 「渋谷系」も一目置いた、プロデューサーとしての絶頂期の画像1
小室哲哉

現代の「トラックメイカー」「トップライナー」の協業体制をひとりで先取り

 小室哲哉はキャリアを通じて、サウンドデザインやトラックメイキングに強い関心を持ち、追求してきた音楽家であった。

 TM NETWORKとしての活動時点から、小室はメロディからではなく、リズムやコード進行から制作を行なっていた。1987年の時点で、TM NETWORKの楽曲における彼の制作スタイルは「コード進行を含むトラックまでを仕上げた段階で、それに合わせてメロディを作る」というものだったことが確認できる。歌と伴奏が渾然一体となった「総合力」の勝負を志向した――というのは2009年の彼自身の弁だ。

 トラックからメロディを制作する役割は、現在ではトップライナー(topliner)と呼ばれており、トラックメイカー(海外では主にproducerと呼ばれる)とは明確に役割分担され、それぞれ別の音楽家が担っていることが少なくない。この手法はヒップホップ/R&B等を中心に広がりを見せ、2010年代には現代のポップスにおける全世界的な基本プロセスとなっていった。小室はこうした工程を80年代からほぼひとりで行なっていたことになる。しかも90年代にはここに作詞も加わる上、手がけるアーティストのイメージ作りに関わるなど、楽曲だけでなくプロジェクト全体の総指揮者となり、「TKプロデュース」というブランドに対する責任を負っていく。当時の彼には松浦勝人(エイベックス創業者)や久保こーじ、前田たかひろをはじめ、制作プロセスを支えるさまざまな才能が集っていたが、そうした環境にあったことを加味しても、小室が当時手がけた作品数を考えると実に驚異的なことだ。

 TM NETWORK活動初期における彼のメロディは、ヴォーカルの宇都宮隆から「歌うというより声でのパーカッションだ」と呼ばれ、作詞家からは詞の提供を拒否されたほど、ある種の斬新さを持ち合わせていた。一方、その個性ゆえにTM NETWORKのチャートアクションは1週目に売上が集中し、2週目以降は急降下を辿る……という、「マスよりもコア」に支持されるアーティストの典型を辿るようになっていく。こうした状況について、当時のオリコンの代表取締役社長・小池聰行は、1994年のTM NETWORK(当時TMN)の“プロジェクト終了”に際し「メガヒットはなかったけど、音楽的価値や影響力は高かった」「彼ら以降のミリオンヒットがどれだけ音楽的な影響力を持っていたかは疑問」「必ずしもヒットの規模と音楽的価値は一致しない」といった言葉を残している。

 こうした言葉の数々は、“小室ブーム”を通じてのみ彼の作品に触れてきた人には意外に思われるかもしれない。というのも、こうした言い回しは、しばしば90年代のTKサウンドへの“口撃”としても使われてきたものだからだ。だが、デジタルサウンドにとどまらず、ファンクやプログレッシヴ・ロック、後年にはハードロックやハウスまでをも飲み込んでいったTM NETWORKの作品たちは、いずれも強烈な個性~過剰なまでの情報量を持ち合わせており、確かに1980年代の典型的なポップスとは一線を画すものばかりである。MV(ミュージックビデオ)をはじめとしたヴィジュアル面でのイメージ戦略にも意欲的だったこともあり、デュラン・デュランなどニューロマンティック方面の洋楽に安易になぞらえられることも多かった彼らだが、この果敢な音楽的クロスオーバー感は、ある意味ではストリーミングが普及しジャンルの壁が崩壊していった「2010年代以降」の音楽シーンの空気にも近いものがある。今こそ再び脚光を浴びてほしいサウンドだ。

 彼がTM NETWORK「Love Train」(’91)以降、カラオケを意識し、メロディに力点を置いた制作を始めたのはファンには有名な話だろう。こうして「マス」を意識し始めた彼の試みが最初に結実したのがTRF(当時trf)の「EZ DO DANCE」(‘93)である。サビで繰り返されるタイトルは、のちに小室自身、「意味やレトリックをどこまで排除できるかの実験」「英語としては間違いどころか、ほぼ意味不明。和製英語にすらなっていない。しかし日本人には伝わってしまう」と振り返っていたが、この「意味不明だが、なんとなく日本人には伝わる」フレーズを、コード数・トラック数ともに削ぎ落としたジュリアナ・テクノ的な高速BPMのトラックに乗せるという、感覚的な”伝達速度”をとにかく優先したような楽曲だ。トップライナーとしての小室においてはある意味で極端な作風ではあるものの、本曲はオリコントップ100圏内に1年近くランクインし続け、彼がTM NETWORK時代にはなかなか手中にできなかった「ロングセラー」を達成する。本曲の成功を足がかりに、彼は現在広く世に知られる“TKサウンド”を形成していくことになる。

 なお、本曲を含め1993年の小室は、1980年代後半以降にイギリスで巻き起こったダンスミュージックのムーヴメント「レイヴ(rave)」をキーワードに掲げてtrfの活動を展開している。TM NETWORK時代の「FANKS」然り、彼のキャッチコピーや記号的引用のセンスは今なお高く評価されているが、その上で有言実行するようにヒットを積み重ね、音楽業界に新しい勢力図を築き上げていくさまは、当時の同業者にはおもしろく映った部分も多かったことだろう。その一旦が垣間見える、彼の絶頂期に放映されていた冠番組『TK MUSIC CLAMP』(フジテレビ系、1995~1998年)でのいくつかの場面について、次ページで触れていきたい。

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