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スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会#26

結局、クリス・ロックは許されるのか? 米スタンダップコメディからの回答

ブラックコミュニティから落胆の声

 ウィル・スミスは翌日の3月28日、すぐさま自身のインスタグラムに謝罪文を掲載したが、批判はやまず、4月1日には自ら映画芸術科学アカデミーの退会を表明した。また進行中であった主演映画も制作中断が次々に発表されるなど大きな影響が出るとともに、翌週にはアカデミーも向こう10年間は授賞式に出入り禁止とするなど制裁が発表された。

 そもそも、今回の授賞式には随所にウクライナの国旗である青色と黄色が施され、戦争という暴力の否定、そして平和への祈りが捧げられていた。また暴力への抵抗から生まれた映画という表現の最高峰を祝う式典でのこうした出来事なだけに、多くの批判も頷ける。ラッパー「フレッシュ・プリンス」としてマイク一本でキャリアをスタートさせ、ハリウッドの頂点をこの日掴んだ彼が、身体的暴力以外の方法で訴えられなかったのか、ともどかしい気持ちになる。

 また、ブラックコミュニティからの落胆、怒りの声も多く聞かれた。これまでハリウッド作品における黒人のステレオタイプ化、具体的に言えば「暴力的で荒々しい」イメージに対し、多くの黒人コミュニティが抵抗を示してきた。ウィル・スミス自身も業界の構造的搾取や機会の不平等についても声をあげ、16年にオスカーのノミネートが白人俳優に限定されたときも、夫婦揃って授賞式をボイコットした。

 しかし、今回世界中の耳目を集めるイベントで犯したあの平手打ちが、長らく映画の中で存在した悪しき黒人のステレオタイプを助長してしまった、という批判が聞かれた。たった一発のビンタが、これまでウィル自身を含め多くのブラックコミュニティが行ってきた努力をふいにしてしまったと論ずるメディアも少なくない。

 普段ならば大きく論調の分かれるアメリカのメディアも足並みを揃えて、暴力の否定を訴えている。FOXニュースからCNNまで、右も左もウィル・スミスの行為を非難する報道が目立つ。いくつかのメディアでは「クリス・ロックだけお咎めなしはおかしい」という意見も散見されたが、舞台上で被った直接的な暴力こそ「制裁」だと捉える人々が多い。そしてそんな中でも、

「今ビンタされたけど、おそらくこれはテレビの歴史上最高の瞬間だったね」

とフォローを入れ、ショーを続行させたことを評価する見方が多い。そのため、自身のスタンダップのツアー公演はチケットの値段が高騰し、直後のボストン公演では会場中がスタンディングオベーションで応えた。

 一方日本ではウィル・スミス擁護派が多数を占めると聞く。この差はどこから生まれてくるのだろうか。もちろん文化的コンテキストが異なるため、意見や世論に違いが生じることはある種当然である。そしてどちらが正しいというなどないのだが、そのひとつには、おそらくアメリカにおける「身体的暴力」への切実な脅威が起因しているのではと推察する。

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