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MCU「フェーズ4」の最も実験的で“危険”な映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』

MCUの「マルチバース」はずっと模索されてきた

MCU「フェーズ4」の最も実験的で危険な映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の画像3
c) Marvel Studios 2022

 映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』によって注目を浴びている「マルチバース」の概念だが、アメコミにおいては以前から定番のキーワードだった。つまり、作品の展開や設定に行き詰まったときに、「それは別の次元、別の世界の話」とする場合に多用される手法とも説明できるだろう。

 ただ、場合によってはリセットさせた世界と進行中の新たな世界が融合するイベントがあったりと、はっきり言って出版社の都合によるものが大きい。これはマーベルやDCコミックス(マーベルと双璧をなすアメコミ出版社)だけに限らず、ダークホースコミックスやイメージ・コミックス、IDW、アーチー・コミックも頻繁に行っていることだ。

MCU「フェーズ4」の最も実験的で危険な映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の画像4
c) Marvel Studios 2022

 ただ、異なる作品のキャラが共演するなどの「マルチバース」に汎用生があるのは、コミックだからこその話であって、映画やドラマなどの映像作品となれば別の話だろう。キャラクターの版権の問題がクリアできたとしても、マルチバースによって「なんでもあり」になってしまう危険性が映画はコミック以上に高いのだ。

 特にMCUは全体がひとつのストーリーとして繋がっていることがメリットであり、デメリットでもある。「マルチバース」を持ち込むと、このキャラクターとあのキャラクターの“夢の共演”を実現できる一方で、これまで時間をかけて築き上げたストーリーラインを崩す可能性も非常に高くなる。だからこそ、これまで直接的には描いてこなかったのだろう。その証拠か、『ドクター・ストレンジ』の企画は『アイアンマン』(2008)の公開直後にから存在していたにも関わらず、実現するまで長い時間がかかっている。

MCU「フェーズ4」の最も実験的で危険な映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の画像5
c) Marvel Studios 2022

「アメイジング・スパイダーマン」シリーズが続いていたとしたら、アンドリュー・ガーフィールド版のスパイダーマンをマルチバース設定でMCUに登場させる企画案もあった。マルチバースの取り込み方は、それほど常に模索されてきていたのだ。

 ただ、マルチバースによって全てが順調に進むとは限らないし、どこかで軌道修正をしなければならなくなることもある。それに、いつまでもマルチバースを扱うわけにもいかない。そこで、「フェーズ4」(=約10年にわたる壮大な物語”インフィニティ・サーガ”のその先を描くMCUの作品群)がどんな意味を持つのかを、改めて考えてもらいたい。

 筆者は「フェーズ4」は、MCUにとって“実験的なフェーズ”だと強く感じている。その証拠として、フェーズ4に入ってから、アクション映画とは畑違いの監督が続々と抜擢されているのだ。

 例えば『ブラック・ウィドウ』(21)では、第二次世界大戦のドイツ敗北後、ナチスの両親をもった子どもたちの苦悩を描いた『さよなら、アドルフ』(12)の監督、ケイト・ショートランドが抜擢された。結果として、ブラック・ウィドウことナターシャが傭兵として育てられた過去や心理的支配から逃れる構造として、リンクする部分が非常に多かった。

 『エターナルズ』(21)の場合も、監督のクロエ・ジャオが『ノマドランド』(20)で見せた、自然による造形物を神秘的に見せる演出をそのまま持ち込んだ。さらに明確な性描写のシーンや、オープンな設定としては初めてとなる、同性愛者のキャラクターも登場した。

MCU「フェーズ4」の最も実験的で危険な映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の画像6
c) Marvel Studios 2022

 そして本作の監督、サム・ライミも、実は実験的なキャスティングである。サム・ライミはもともとマーベルの大ファンであり、『スパイダーマン』(02)を制作する前には、『マイティ・ソー』の映画化も企画していたほど。原作者のスタン・リーとの交友関係もあった。言ってみれば、サム・ライミを起用しようと思えば、これまでにも実現できたはずなのだ。それが、なぜ今なのか……。そう考えながら本作を観ると、その意味がわかるかもしれない。

 極端な話、マルチバースの多用は、「フェーズ4」の作品のみになる可能性も高い。「フェーズ4」におけるMCU作品の傾向を見ていると、今後の方向性を模索しているとしか思えない。

MCU「フェーズ4」の最も実験的で危険な映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の画像7
c) Marvel Studios 2022

 感覚的には、マルチバースによって世界観を繋げるというより、リセット、もしくは編成上の調整に近いのかもしれないと筆者は思っている。

 

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』
5月4日 (祝・水)映画館にて公開
■監督:サム・ライミ
■出演:ベネディクト・カンバーバッチ/エリザベス・オルセン/ベネディクト・ウォン/レイチェル・マクアダムス/キウェテル・イジョフォー/ソーチー・ゴメス
■配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
■公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/dr-strange2.html 

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

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ばふぃーよしかわ

最終更新:2022/05/04 07:00
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