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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.687

「部落問題」を明るく語り合うドキュメンタリー『私のはなし 部落のはなし』

ザ・ブルーハーツを歌う若者たち

「部落問題」を明るく語り合うドキュメンタリー『私のはなし 部落のはなし』の画像4
かつてのスラムの様子。住民の自主的運動によって環境は改善されていった

 部落問題の実情について出演者たちが語り合うパートは、屈託のないトークが繰り広げられる。部落の出身かそうでないか、また世代や地域の違いによっても、部落問題についての認識は異なる。だが、親密に語り合い、認識の違いや温度差があることも含めて、お互いに理解しようとする人たちをカメラは映し出していく。

 成人式をもうすぐ迎える、同じ高校出身の3人の若者たちが、ザ・ブルーハーツの名曲「青空」をウクレレの弾き語りで歌唱するシーンは、象徴的なものになっている。

満若監督「撮影しては考え、また撮影しては考え……という繰り返しでした。ザ・ブルーハーツを歌うシーンを撮った後、『これで、まとまるかもしれないな』とようやく手応えを感じることができましたね。でも、まさか3時間25分もの長さになるとは思っていませんでした(笑)。一度、3時間に編集し、それを短くするか長くするかで悩んだのですが、会話のニュアンスなどを大切にしたかったので、伸ばすことにしたんです。大島さんも賛成してくれました」

 『にくのひと』の取材で満若監督が世話になった食肉センターの元理事長・中尾政国さんの映像が、本作には使われている。中尾さんは2016年に亡くなっているが、映像の中で印象的なコメントを語っている。封印された『にくのひと』に使われていた1シーンだ。

「自分にも差別意識があることを自覚することが大事。差別意識なく働ける人は尊敬されなきゃいけないし、そんな世の中にしていかないといけない。そうすれば世の中から差別がなくなり、そういうところから新しい人間が生まれてくる。そう、俺は思ってんねん(笑)」

 差別する側とされる側との間には、目には見えない溝が横たわっている。この溝は、すぐには埋めることができないかもしれない。だが、出演者たちがそれぞれ自分の考えを率直に語り合う本作には、深い溝を飛び越えてみせる軽やかさと力強さが備わっているように思う。また、この世界には「部落問題」だけでなく、実にさまざまな差別が存在するが、そんな差別問題に対しても考える手掛かりを与えてくれるのではないだろうか。

 

『私のはなし 部落のはなし』
監督/満若勇咲 プロデューサー/大島新 撮影/辻智彦
編集/前蔦健治 整音/高木創 音楽/MONO 語り・テキスト制作/采奈菜子
配給/東風 5月21日(土)より渋谷ユーロスペース、大阪・第七藝術劇場、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
©『私のはなし 部落のはなし』製作委員会
buraku-hanashi.jp

最終更新:2022/05/20 18:00
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