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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

映画『わたしは最悪。』“奔放”と“正直”を言い訳にする“最悪”な人間性が痛快

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

吉田戦車の『火星田マチ子』

映画『わたしは最悪。』奔放と正直を言い訳にする最悪な人間性が痛快の画像1
© 2021 OSLO PICTURES – MK PRODUCTIONS – FILM I VÄST –  SNOWGLOBE –  B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA/2021

 映画の話の前に、やや長めの前置きを。

 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『殴るぞ』などで知られる不条理漫画の第一人者・吉田戦車が1993年に刊行した『火星田マチ子』という作品がある。リボンをつけたタコ型火星人のマチ子が「恋」を学ぶべく地球にやってきて、人間の男性に恋をする内容だ。

 面白いのは、その「人間の男性に恋をする」が、マチ子にとっては完全に自己目的化しているという点だ。マチ子は最愛の相手と真に心の交歓をしたいわけではない。ただ「恋がしたい」だけ。デートというものがしたい、恋人のいない同性の友人に優越感を抱きたい。嫉妬や三角関係というドラマチックなイベントを体験したい。恋に恋した火星人の、いわば「コスプレ的な恋」である。

 物語中盤、マチ子は特にたいした理由もなく2人の男性の間で気持ちが揺れる。ラスト、そのうちの一人を選んだマチ子は、彼女の父いわく「恋やデートの達人」になって終わる。

 マチ子は人を食ったような態度と言動を取り続け、誰に対してもとにかく強気に出る。かなり自分本位でやりたい放題だが、作中でその罰は受けない。

 マチ子のいびつな倫理観や恋愛観について、大真面目に語ることに意味はない。これは、地球人とは常識も感覚も異なる宇宙人が巻き起こす騒動をオフビートに描く、不条理ナンセンス漫画だからだ。

 そんなお騒がせヒロインのマチ子にどことなく似ているのが、『わたしは最悪。』のヒロイン・ユリヤである。当然ながら、こちらは不条理ナンセンス漫画ではない。デンマーク出身の鬼才ヨアキム・トリアーがメガホンをとり、カンヌ国際映画祭で女優賞受賞、アカデミー賞に2部門ノミネートされたダークコメディだ。世界の映画賞で19受賞、101ノミネートもされているというから恐れ入る。

「自分に正直な」アラサー女性の恋

 端的に言って“クソ女”の話だ。『わたしは最悪。(英題:The Worst Person in the World)』のタイトルはダテじゃない。

 主要登場人物は、劇中で30歳を迎えるユリヤ、ユリヤからのアプローチで交際をはじめる40代の売れっ子コミック作家アクセル、ユリヤがアクセルを振って途中で乗り換えるアイヴィンの3人だ。

 本作の日本版公式サイトには「自分に正直に人生を選択していくユリヤの恋と失敗と成長の物語」とあり、それはそれで間違ってはいない。が、そんなユリヤの“成長”のために人生を振り回されたアクセルとアイヴィンにしてみれば、どうか。

 ユリヤは才気走っていてそれなりに能力値は高いものの、いまだ何も成し遂げていない凡人である。成績優秀で医学部に進学したかと思えば、嫌気が差して心理学にシフトし、それも嫌になってアルバイトをしながら写真家を目指す。移り気で浅はかで器用貧乏。常に変化を求め、自己実現欲求が高く、自分の感受性に陶酔気味。まあ、鼻につく。

 ユリヤは劇中のあるシーンで「私の人生なのに(私は)傍観者で、脇役しか演じられない」と愚痴を吐くが、そりゃお前に主役の力量がないからだろうよ……と観客は思わずツッコミを入れたくなる。そんなアラサー女性の奔放すぎる本音が、美しい北欧の街オスロを舞台に、絶妙な皮肉と露悪をもって描かれるのだ。

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