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文化横断系進化論 VOL.2

『千年女優』ついに解禁で大反響! 今敏&平沢進の共鳴が生み出した奇々怪々な魅惑

“互いの感性で魂を受け取り合う”というクリエイティブの真髄

 冒頭のシーンで流れる「Lotus Gate(Landscape-1)」に対し、平沢は「全てを見終わった時、冒頭の選曲の意味を知り、背筋が寒くなった。この曲の構造に、あの地滑りのように変転する千年女優の時空トラップを読み解くカギがある。」といった。(※7)平沢がかつてユニット名義でリリースした『Landscapes』に収録されている楽曲が元となるのが、この作品ではCG制作に用いる“フラクタル幾何学”というプログラムを音楽に流用しているという。

 願望や理想のすべてを含めた、小さくて複雑な記憶がいくつも積み重なり、現実と虚構が入り混じる大きな記憶が形成されたとする。それがいつしか自己相似性を持つようになり、虚構さえも取り込んだ一つの“真実”となり、“千年女優”である藤原千代子を形成する。そう考えてみると、今敏が描いた本編と平沢進が手掛けた音楽がより濃く繋がり、オープニングシーンにも深みが増すような気がしないだろうか。とはいえ、私自身が専門的な知識を有していないため、正確な解釈にはまだまだ及ばないことだろう。幾何学的な観点や別角度から見える繋がりや光景があれば、ぜひとも話を聞かせてほしいと強く思う。

 わかりやすく、端的に、スマートに。短縮を極める三か条は、いつしかビジネスの売り文句を越え、映画や音楽、漫画といった芸術分野へ、さらには人と人との関わりにまで侵食している。しかし、言葉にすれば陳腐になってしまうような思いや感情は、わかりやすくも端的にも、スマートにも伝えられないものだ。

 時に、心や思考が共鳴すれば、言葉というフィルターは必要ないのかもしれない。ものづくりでは、提示したものがすべての答えを持っており、それが言葉以上の信頼を勝ち取ることになる。それは互いへのリスペクトと愛があってこそ叶う所業ではあるが、今敏と平沢進の間には、その二つが確実に存在していたに違いない。言葉の解を待たず、互いの感性で魂を受け取り合い、形にする。そんな元来のクリエイティブ精神とその真髄を、『千年女優』から感じざるを得ないのだ。

【参考】
※1 http://konstone.s-kon.net/modules/interview/index.php?content_id=15
※2 ユリイカ 2020年8月号 特集=今敏の世界 –
※3 http://konstone.s-kon.net/modules/interview/index.php?content_id=3
※4  http://konstone.s-kon.net/modules/pb/index.php?content_id=2
※5  http://teslakite.com/1000nen/
※6/※7  http://konstone.s-kon.net/modules/interview/index.php?content_id=15

 

宮谷 行美(ライター)

音楽メディアにてライター/インタビュアーとしての経験を経た後、現在はフリーランスで執筆活動を行う。坂本龍一『2020S』公式記事の執筆や書籍『シューゲイザー・ディスクガイドrevised edition』への寄稿の他、Real SoundをはじめとしたWebメディアでの執筆、海外アーティストの国内盤CD解説などを担当。

みやたにいくみ

最終更新:2022/06/26 21:50
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