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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.693

人間を本能に忠実にさせる感染症が蔓延! 台湾発のR18ホラー『哭悲/THE SADNESS』

薄氷のように脆い、平和や日常と呼ばれる言葉

岸井ゆきのを「ゲスかわ女優」と呼びたくなるムロツヨシとの共演作『神は見返りを求める』の画像3
アルヴィンウイルスに感染した中年サラリーマンは、本能と欲望に忠実だった

 生き別れ状態だったジュンジョーとカイティンだったが、「絶対に助けに行くから」とスマホで交わした約束を守るため、ジュンジョーはスクーターを走らせる。大学病院にカイティンが逃げ込んだことを知り、ジュンジョーは左手から血を流しながらも懸命に向かう。

 本能に忠実になるアルヴィンウイルスによって、人間は文明化する以前の野生動物さながらの獰猛な生き物となってしまう。美しいカイティン、必死で人間性を保とうとするジュンジョーは、共に感染者たちの標的となる。感染者たちが暴力を振るい、性欲をむき出しにする中、カイティンとジュンジョーは愛し合うことをやめようとしない。2人にとっては、お互いを愛することこそが嘘偽りのない感情だった。血まみれのラストシーンの中で、主人公たちに残されていた本能だけが唯一の救いとなっている。

 この恐ろしいウイルスも、感染爆発した後は、集団免疫を人間は持つようになり、いつかは収束に向かうことになるのだろう。だが、集団免疫を持つようになった人間社会は、それまでの世界とは異なるものになっているはずだ。ウイルスが変異を繰り返すように、人間社会も変異することで、新しい時代に対応しようとするのではないだろうか。

 もしも、人間を本能化させるウイルスが日本にも流れ込んできたら、忖度する公務員や過度なストレスを抱えた会社員が多い官庁街やビジネス街は、あっという間に地獄絵図になるに違いない。もちろん、自宅で殺し合う家族も出てくるはずだ。そして、平和や日常生活と呼ばれているものは、湖に張った薄い氷のようにとても脆いものであることに気づくだろう。

 

『哭悲/THE SADNESS』
監督・脚本・編集/ロブ・ジャバズ
出演/レジーナ・レイ、ベラント・チュウ、ジョニー・ワン、アップル・チェン、ラン・ウエイホア
配給/クロックワークス  R18+ 7月1日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©2021 Machi Xcelsior Studios Ltd.All Rights Reserved.
klockworx-v.com/sadness

最終更新:2022/06/30 20:00
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