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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.703

実録ミステリー『空気殺人』 大企業と国家が隠蔽しようとした家庭内大量殺人

メーカー側が仕掛ける巧妙な法廷戦術

実録ミステリー『空気殺人』 大企業と国家が隠蔽しようとした家庭内大量殺人の画像2
医師のテフン(キム・サンギョン)は犠牲者を増やさないため訴訟に踏み切る

 法廷シーンが印象的だった実録犯罪ミステリーと言えば、聴覚障害などのある児童たちが教員たちによって性的虐待を受けていたことを告発した『トガニ 幼き瞳の告発』(11)が挙げられる。『トガニ』でも描かれていた「前官礼遇」と呼ばれる韓国法曹界の悪しき習慣が、テフンたち原告団の前に立ち塞がる。

 韓国社会における「前官礼遇」とは、検事・判事などの公職を辞めて弁護士に転身した者が特権的な待遇を得る慣例のことを主に指し、特に前官弁護士を最初の裁判でなるべく勝たせるようとする悪習が問題となっている。メーカー側はこの「前官礼遇」を利用して、退官したばかりの地方裁判所の裁判長を弁護士として雇い入れる。

 裁判が始まると、メーカー側はより巧妙なトラップを仕掛けてくる。原告団はみな一般市民で、遺族を最後まで救おうとなけなしの治療費を払い続けた。金銭的に余裕のある者はいない。怒りと悲しみで結束している原告団に対し、メーカー側は一部の遺族にだけ和解を持ち掛けた。原告団の中心的な人物に狙いを定め、高額の和解金をチラつかせることで示談にしようとする。

 仲間がひとりふたりと欠け、原告団はバラバラになってしまう。裁判慣れしているメーカーや国にとっては、「スラップ訴訟」と同様に初歩的な戦術だった。

 さらには有名大学の教授に対し、メーカー側が多額の資金援助を申し出ることで、事実とは異なる検証結果を発表させてしまう。法廷シーンで暴かれるのは、事件の真相ではなかった。すべてはお金次第。立場の強い者が、真偽に関係なく勝ち続ける。韓国社会のドス黒い暗部が、スクリーン上に次々と開示されていく。

 もうひとつ、『トガニ』を強烈に思い出させるシーンがある。『トガニ』で聴覚障害のある少女たちを性的虐待するド変態校長を熱演した名脇役のチャン・グァンが、本作では長老議員役で出演している。にこやかな笑顔で検察庁を訪ね、事件を扱う検察官たちに無言の圧力を掛ける。メーカー側が敗訴すれば、殺菌剤の販売を認めた国側も責任を問われることになるからだ。言葉では明確に指示せず、検察官たちへの忖度を求める。暴力団の組長と同じようなやり方である。

 目には見えない空気の淀みが、正義の行方を歪めていく。勝ち目のない裁判に、原告団の疲労は募るばかりだった。(2/3 P3はこちら

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