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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

『川っぺりムコリッタ』、一見スローライフ映画から漂う死の香り

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

腐っているものを美味しいと言う

『川っぺりムコリッタ』、一見スローライフ映画に同居する「鮮―生」と「腐―死」の画像7
© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

 執拗に並列される鮮と腐、生と死は、やがて重なる。山田が父親の遺骨をイカの塩辛の壺に収め、南が夫の遺骨を口に含むからだ。本来一致すべきでない「鮮―生」と「腐―死」が、「食」というアクションによって固く結ばれる。

 よくよく考えると、イカの塩辛は発酵食品、つまり「腐ったもの」だ。つまり山田は最初から、腐っているものを美味しそうに食べていた。山田がイカの塩辛工場に勤めたのは、生きている山田と自死した父親を結びつける必然だったのか。

 鮮と腐、生と死。あるいは聖と俗、陰と陽。そして汚いものと尊いものも、やはり隣り合わせだ。“生”まれたばかりの赤ん坊であれ、“死”期の近づいた老親であれ、オムツ(汚いもの)を取り替えた回数が多いほど、相手に対する情(尊いもの)が深まる、という謂(いい)もあろう。

『かもめ食堂』では清潔すぎて察知できなかったものが、『川っぺりムコリッタ』では清濁ワンセットで可視化されていた。いや、単に筆者自身の目の曇りが晴れただけなのかもしれないが。

 16年前の自分に必要だったのは、きっと北欧雑貨ではなくイカの塩辛だったのだ。

『川っぺりムコリッタ』、一見スローライフ映画に同居する「鮮―生」と「腐―死」の画像8
© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

『川っぺりムコリッタ』</ br> 9月16日(金)全国ロードショー
配給:KADOKAWA

出演:松山ケンイチ ムロツヨシ 満島ひかり  江口のりこ 黒田大輔 知久寿焼 北村光授 松島羽那 柄本 佑 田中美佐子 / 薬師丸ひろ子 笹野高史 / 緒形直人
吉岡秀隆
監督/脚本:荻上直子『かもめ食堂』『彼らが本気で編むときは、』
配給KADOKAWA 
公式WEBサイトURL : https://kawa-movie.jp
コピーライト:© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

稲田豊史(いなだ・とよし)

稲田豊史(いなだ・とよし)

編集者/ライター。キネマ旬報社を経てフリー。最新著書『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)が大ヒット、そのほか『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)などがある。

最終更新:2022/09/16 11:30
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