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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

『川っぺりムコリッタ』、一見スローライフ映画から漂う死の香り

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

『川っぺりムコリッタ』、一見スローライフ映画に同居する「鮮―生」と「腐―死」の画像1
© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

※本記事は2P以降に、多少のネタバレがあります。

『かもめ食堂』が嫌だった

 荻上直子監督作と言えば、『かもめ食堂』(06)を思い起こす方も多いだろう。筆者もそのひとりだ。

 フィンランドの小さな日本食レストランを舞台に繰り広げられる、女性3人(小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ)の物語。パリパリ海苔のふっくらおにぎりやシナモンロール、卵焼きや焼き塩鮭など、素朴だが美味しそうな食べ物が印象的な映画だった。

 その穏やかでまったりとした空気感は、公開当時にトレンドが続いていた「スローライフ」や「ロハス」といった文脈にピタリとはまり、「癒し映画」として主に20~30代女性の大きな支持を取り付けた。家具や雑貨の分野で猛威を振るっていた北欧ブームも追い風になったかもしれない。

 ただ、当時の筆者は『かもめ食堂』を素直に受け入れられなかった。

 いや、映画自体はとても良かった。簡素に見えて精密に計算し尽くされた画面はいくら眺めても見飽きなかったし、3女優の味わい深い存在感も実に心地良い。料理やインテリアなど画面に映るものすべてが目に優しく、五臓六腑に染みわたるレベルでコンフォタブル(快適)だった。

 しかし一方で、その快適さに溺れることは堕落ではないか? という思いも拭えなかった。当時の鑑賞メモには、こんなことが書いてある。

・無菌室でデザインされた人工的な癒し
・心療内科の待ち合い室みたいなセラピー映画
・スローライフ乙、デトックス乙、ていねいな暮らし乙
・沖縄2.0的「なんくるないさ」精神
・癒やされろという強制、この価値観に同意するかしないかという宗教?

 荒ぶる毒がすごい。一体何と戦っていたのか謎だが、とにかく「認めたら負け」的なファイティングポーズを取っていたのは確かだ。16年前の筆者は、さぞ抑圧的な人生を送っていたに違いない。実際2006年当時は、仕事・私生活ともに極限までくたびれきっていた。

『めがね』に「あれ?」と思う

 しかし、翌年の2007年に公開された同じく荻上監督作『めがね』を観て、「あれ?」と思った。

 こちらは主人公の女性(小林聡美)が、南の島の小さな宿「ハマダ」に単身宿泊し、宿に集う人たちによって心が解きほぐされていく物語。「都会で疲れた中年女性が“電波の届かない場所”に行きたい的な癒され願望全開」の展開からして、『かもめ食堂』ライクな「癒し映画」の第二弾……と思いきや、違っていた。

 主人公はハマダで自分に干渉してくる人々を煩わしいと感じ、島内にある別の宿・マリンパレスに赴く。しかしそこで繰り広げられていたのは、「自然の恵みを感じよう」「宿泊客も土いじり」「コンセプトのお勉強会」といった意識高い系ナチュラリスト活動、言い換えるなら「スローライフの不快な押し付け」だった。それを生理的に無理と感じた主人公は、すぐさまハマダに舞い戻る。

 この展開は衝撃だった。『かもめ食堂』の時に筆者が抱いた「無菌培養された癒しの強制」に対して、「そんなことを感じる必要はない」と言われた気がしたからだ。スローなライフもデトックスも癒しも、強制されてやるものじゃない。やりたいならやればいいが、それを選択するかどうかは自由。もっとゆるくていい、もっと享楽的でいい、コンセプトなど必要ない。

『めがね』はいかにも、ヒットした『かもめ食堂』の第二弾的な打ち出しで公開されたものの、その実、似て非なるものだったのだった。なお、『かもめ食堂』は群ようこの原作を映画化したものだが、『めがね』は荻上のオリジナル脚本作である。

 その荻上は2017年のインタビューで、今までの監督作が「癒し系」と言われてきたことについて「すっごく違和感がありました」と答えている(「『かもめ食堂』『めがね』の荻上直子監督、“癒し系”評価に違和感『むしろ強い女性を描いてきた』」/「ウートピ」2017年2月25日 https://wotopi.jp/archives/51460)。

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