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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.716

東出昌大が怪優と化した『天上の花』 「愛ゆえの暴力」はありえるのか?

東出昌大が怪優と化した『天上の花』 「愛ゆえの暴力」はありえるのか?の画像1
剣道三段、陸軍士官学校を中退した詩人・三好達治を東出昌大が演じる

 太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

 三好達治の二行詩「雪」は国語の教科書にも載り、誰もが一度は読んだことがあるだろう。そんな日本情緒あふれる詩で知られる昭和の詩人・三好達治の隠された裏の顔を描いたのが、東出昌大が主演した映画『天上の花』だ。戦時中、敬愛する萩原朔太郎の妹と福井県の海辺の村で同棲生活を送った三好達治の逸話を題材にしている。

 萩原朔太郎の娘・萩原葉子が1966年に発表した原作小説『天上の花―三好達治抄―』は、芥川賞候補になったものの、実名を使ったスキャンダラスな内容から受賞を逃した問題作だ。ベテラン脚本家の荒井晴彦と弟子にあたる五藤さや香の共同脚本作として脚色されている。

 東出昌大が三好達治を演じ、自分の純粋な想いが伝わらないことに怒り、恋人にたびたび暴力をふるう姿は狂気を感じさせる。荒井晴彦が脚本を手掛けた文壇実録映画『あちらにいる鬼』(公開中)と同様に、創作に打ち込む作家の尋常ならざる世界が生々しく描かれている。ヒロイン役の入山法子にとっても入魂作だろう。

 昭和のはじめ、三好達治(東出昌大)が師と仰ぐ詩人・萩原朔太郎(吹越満)の家を訪ねるところから、この物語は始まる。朔太郎には美人と評判の妹・慶子(入山法子)がおり、三好は慶子にひと目惚れしてしまう。慶子に会うために、毎日のように朔太郎宅に通う三好だった。だが、贅沢な暮らしを好む慶子は、貧しい書生にすぎない三好を相手にしようとはしなかった。

 慶子と結婚したいがために、出版社に就職する三好だったが、折からの不況で出版社は倒産。一時は慶子と婚約した三好だったが、縁談もご破算となってしまう。慶子は流行歌の作詞家・佐藤惣之助と結婚。失意の三好は、佐藤春夫(浦沢直樹)の姪・佐藤智恵子(関谷奈津美)と見合い結婚する。

 太平洋戦争へと突入する昭和17年(1942年)、萩原朔太郎が病死。その4日後に佐藤惣之助も突然死する。朔太郎の葬儀で、10数年ぶりに慶子と再会した三好の恋心が再燃する。田舎は空襲の心配がなく、食べ物もたっぷりある、不自由な生活はさせないという三好の誘いに応じ、慶子は三好がひとりで暮らす福井県三国町にある一軒家へと向かう。

 愛人扱いされるのを慶子が嫌ったことから、三好は妻と離婚し、2人の子どもとも別れていた。このとき、三好は44歳。4つ下の慶子はすでに三度の結婚を経験していた。16年4カ月、慶子のことを一途に想い続けた三好の願いが、戦時下でようやく叶った。うれしさを隠せない三好だった。

 だが、三好のそんな純粋さが狂気へと転じることになる。

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