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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は虚構世界のドキュメンタリー映画!?

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写真/Getty Imagesより

没入感<実在感

 ジェームズ・キャメロンが『アバター』(09)以来13年ぶりの続編として、かつ全5部作の2作目として監督した『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター(WoW)』(12月16日より全国公開中)に関しては、「見たことのない凄い映像、以上」で感想は事足りてしまうが、その凄さにさらなる解像度を与えるなら、「没入感」を「実在感」が超えている、とでも言おうか。

 両者は似ているようで少し違う。「没入感」はゲームや3D映像の文脈でよく使われる言葉で、「他のことが気にならなくなるほど、ある対象や状況に意識を集中している感じ」(「デジタル大辞泉」より)。現実にはありえないSFやファンタジーの世界に自分が「いる」感覚をもたらす尺度として、ある種のエンタメにおいては定番の褒め言葉だ。

 『アバターWoW』の「没入感」が凄まじいのは、論を俟たない。細部まで描きこまれた惑星パンドラの美しい大自然を、あますところなく疑似体験できるからだ。前作『アバター』が一部で「史上最高のアトラクション映画」と評された理由のひとつでもある。

 一方の「実在感」とは、描写されているものの量感や質感が、“平時の感覚に照らし合わせて身近に”感じられることだ。もしそれが想像上の物体や架空の生物なら、「我々が住むこの現実世界にそれが存在していても、なんら違和感のない感じ」と説明できる。

 つまり、「没入感」とは現実とは異なる場所にハマっている感覚、「実在感」とは現実と地続きであるという感覚だ。

……という説明を聞くと、なんなとく両者は相容れないように聞こえるが、『アバターWoW』は、圧倒的な「没入感」を一切邪魔することなく、「実在感」がそれを大きく凌駕した作品だ。CGで描写された水や光や風、先住民族ナヴィの挙動、超巨大メカの駆動や破壊。それらはパンドラという純度100%ファンタジーの虚構世界に観客を没入させる立役者であると同時に、実在度が異常に高い。まるでニュース番組でも見ているかのように、“平時の感覚に照らし合わせて身近”なのだ。

 そう感じる理由のひとつが、アクションシーンや水の描写が絡むシーンに採用された毎秒 48 フレームのハイフレームレート(HFR)による上映である。

「毎秒48フレーム」の罠

 ごく簡単に説明すると、一般的な映画は1秒間に24コマの静止画を連続的に映すことで、動いているように見せている。これが「毎秒 24 フレーム(24fps)」だ。この静止画の数を倍にしたのが 今回のHFR、「毎秒 48 フレーム(48fps)」だ。『アバターWoW』は、このHFRと3Dをかけ合わせた上映が実施されている(ただし上映劇場は限られる)。

 毎秒24コマが48コマになると、どうなるか。上映劇場チェーンのひとつであるイオンシネマによれば、「画面のちらつきが消え、3Dの迫力映像とあいまって、よりなめらかで鮮明な映像体験を味わうことができる」。これをカジュアルに言い換えるなら、「人物などの動きがヌルヌルする」。ややネガティブに形容するなら「ビデオ映像っぽくなる」「ゲーム画面っぽくなる」だ。

 コマ数が増えれば、動画の情報量は上がる。普通に考えれば、これは良いことだ。しかし映画という「虚構の世界に説得力をもたせる」メディアでは、吉ではなく凶と出ることもある。

 たとえば、ピーター・ジャクソン監督の『ホビット』三部作(2012~14)は、長編としては世界初のHFR+3D撮影・上映作品だったが、その画面を「なんだか安っぽい」と感じた観客も少なくなかった(筆者もだ)。ビデオ映像、すなわちテレビドラマっぽい印象を抱いたためである。細かいアクションがチラつきなく細部まで視認できるのは素晴らしかったが、時おり「現実に引き戻される」感じがして白けてしまった。ファンタジーに没頭しきれなかったのだ。

 筆者を含む当時の観客は、ここで気づいた。「映画ならではの没入感」と「現実っぽさ」は意外と相性が悪いのだと。24fpsという、ちょうど良く情報が「間引かれて」いる状態こそが、虚構をもっともらしく語る映画にとってはむしろ好都合だった。映画の「嘘」の輪郭を曖昧化することで、観客が「嘘」を信じてくれるからだ。精密極まりない写真ライクな写実画よりも、細部描写にこだわらない印象派の絵画のほうが、その世界に「没入」できるケースは、ままある。

 『ホビット』のようなファンタジー映画の場合、画面内には我々の現実世界に存在しない道具や建物が大量に登場するが、HFRでその「実在感」が加速されたせいで、「作り物の小道具感、スタジオセットぽさ」が際立ってしまった。結果、「没入感」が「実在感」に組み伏せられてしまったのだ。

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