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『アメトーーク!』だからこそのアントニオ猪木特集! 彼の死がまだ信じられない【1万3千字レビュー】

ラッシャー木村に感情移入する、はぐれ国際軍団との抗争

 続いて有田が挙げたのは、はぐれ国際軍団との1対3変則マッチである。国際プロレス崩壊後、ラッシャー木村、アニマル浜口、寺西勇の3人が新日に殴り込みを掛け、「3人まとめてやってやる!」と猪木が受けて立ったことで実現した試合だ。

 現代の感覚で振り返ると、国際側の切なさに感情移入してしまう。帰る場所のない男たちが、格下扱いの「1対3」という屈辱的なマッチメイクを受け入れたのだ。特に、大相撲出身の木村はサンボの心得もあり、ガチンコの強さには定評のあるレスラーだった。

 有田がこの試合の見せ場としてピックアップしたのは、レフェリー・山本小鉄の活躍である。

「猪木さんを3人がかりでやったらいけないわけ。だから、タッチしないで入っていくみたいなのも絶対に許されない。だから、そこはレフェリーたちが頑張るわけです。止めるのが面白い!」(有田)

 猪木の関節技に悶絶する木村を救うべくリングに入ろうとする浜口や寺西を、身を挺して止める小鉄。試合を裁きながら、残る2人に低空の両足タックルを決めまくる姿は“鬼軍曹”の面目躍如だ。このシーンだけ見ると、さながら小鉄が主役の試合のようにさえ思えてくる。「小鉄さんがキャディラックを停める音が道場に聞こえただけで震え上がった」とは、練習生時代を振り返る際の前田日明の証言だ。

 この試合で、順調に2人(浜口、寺西)抜きを果たした猪木。しかし、最後は木村のラッシングラリアットを食らい、ロープに脚を引っ掛けたまま起き上がることができず。結果、猪木はリングアウト負けを喫した。この結末で最も悔しさを露わにしたのは、リングカウントを数える小鉄レフェリー本人であった。

 ただ、バックステージでは、新日を揺るがすクーデターの首謀者だった小鉄と猪木の仲は険悪だったと言われている。「底が丸見えの底なし沼」とは、プロレス界に古くから伝わる言葉だ。

 さらに有田は、国際軍団が新日に初登場時のエピソードも紹介した。

「猪木VS国際軍団はすごい盛り上がるはずだったのに、最初でちょっとコケちゃったのよ。っていうのは、国際軍団って見かけは反社みたいな格好してるわけ。その人たちが、田園コロシアム(1981年9月23日)の猪木の試合前に入ってきた。で、マイクを向けられて。『イノキー、国際プロレスの強さを見せつけて新日本プロレスなんかぶっ潰してやるからな!』が欲しいわけよ。でも、どうなったか?」(有田)

 同日のメインは、猪木VSタイガー戸口による一戦であった。その直前にリングに立つ、はぐれ国際軍団の3人。そこでマイクを向けられたリーダー・木村は、以下のような言葉を発した。

「こんばんは。私たちは国際プロレスの名誉にかけても、必ず勝ってみせます。またですね、この試合のために、今、私たちは秩父で合宿を張って死にもの狂いでトレーニングをやっております」(木村)

 まるで、母親へ送る手紙みたいに生真面目さがにじみ出た、木村からの宣誓であった。猪木の顔を見ると、「あの野郎、何やっているんだ」と冷えた表情になっている。直後、空気を察した浜口が代わりにマイクを握り、ドスの効いたマイクアピールでリカバリーを試みたシーンも含め、一連の流れがプロレス界に伝わる「こんばんは事件」の顛末だ。

 この事件は業界内外にインパクトを与え、例えばビートたけしは「こんばんは、ラッシャー木村です」といち早くお気に入りのギャグとして木村の語録を採用、重宝し続けたものだ。

 しかしである。もしここで、プロレス的にがなり立てるいかにもなマイクを木村が行っていたらどうなっていたか? 「弱い犬はよく吠える」ではないが、最初からファンに格下の印象を与えてしまい、“闘将”ラッシャー木村の説得力は失われていたと思うのだ。「こんばんは」は、逆に静かな闘志を感じさせるマイクアピールだったと筆者は捉えている。

 その後、新日マットでヒール化していった国際軍団。新日主導によるリニューアルの結果、国際軍団の3人は見事にファンからの憎悪を集めた。ついには木村の家に物が投げ込まれ、飼っていた犬は新日ファンによるいじめでノイローゼになってしまった。心を痛めた木村はプロレス誌の編集部を訪ね、心の内をブチ撒けた。

「新日本プロレスの客は、家庭や学校でどういう教育を受けてきたのか。よその団体を訪れたから、私は『みなさん、こんばんは』と挨拶したまで。それを笑った挙げ句、帰れ帰れとはどういうことか。私はそういう失敬な教育は受けてない!」(木村)

 しかし、次第に「こんばんは事件」は不思議な形でファンに受け入れられるようになり、のちの“ラッシャー木村のマイクパフォーマンス”につながったのだから、人生はつくづくわからない。

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