白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授「勘違いの地方創生」【7】

崖っぷちの地方公共交通機関「乗らないけど維持して」住民との温度差をどう埋める

文=小笠原伸(おがさわら・しん)

崖っぷちの地方公共交通機関「乗らないけど維持して」住民との温度差をどう埋めるの画像1

 いま日本の各地で「地方創生」が注目を浴びている。だが、まだ大きな成功例はあまり耳にしない。「まちおこし」の枠を超えて地域経済を根本から立て直すような事例は、どうしたら生まれるのだろうか?

 本企画では、栃木県小山市にある白鴎大学で、都市戦略論やソーシャルデザイン、地域振興を中心とした研究を行う小笠原伸氏と、各地方が抱える問題の根幹には何があるのかを考えていく。

 第7回目は、地方の公共交通機関がいま直面する問題について聞いた。2022年、JR西日本と東日本がそれぞれ不採算路線の収支を初公表。夏には、JR北海道の一部路線の段階的廃止が発表された。維持がままならなくなる一方の状況に、どう立ち向かうべきなのか――。

「乗らないけど維持してほしい」それではもう成り立たない

――2022年は、地方の公共交通機関の存続に関する報道が相次ぎました。4月にJR西日本が不採算17路線の収支を初めて発表したのに続いて、7月末にはJR東日本も赤字路線の収支を初公表しました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC258X50V20C22A7000000/
https://www.asahi.com/articles/ASQ4C2W6CQ48PLFA00H.html

小笠原 あの発表は、いま地方の公共交通機関に何が起こっているか、非常にわかりやすく見せた出来事でした。JRさんはこれまで大都市部の鉄道事業等で得た利益で地方の路線を維持してきた構造があります。今回、不採算路線の収支発表に踏み切ったのは、それがもう立ち行かなくなっていることを示していると思います。

――8月29日に地域公共交通総合研究所(岡山市)が発表した調査結果によれば、アンケートに回答した公共交通事業者120社のうち約2割が、コロナ禍による乗客減で債務超過に陥っているとのこと。東京に住んでいるとなかなか実感が得られませんが、かなり危機的状況になっていることが伝わってきます。
https://www.kobe-np.co.jp/news/zenkoku/compact/202208/0015594101.shtml

小笠原 まず言っておきたいのは、この問題はコロナ禍以前からずっと存在していたということです。ですが、この連載で何度も言ってきた通り、あらゆる分野でコロナ禍が時計の針を大きく進めてしまった。それによって一気に前面化してきているんです。

――どれくらい以前から、議題として存在していたんですか?

小笠原 私が知る限り、20年くらい前から地方の役所の会議などで耳にしていた話です。わかりやすいのがバスですね。地方のバスは早い段階から路線の運営に補助金が入るようになっています。バス会社としては当然、利用者が減って儲からなくなった路線は本数を減らしたり廃線にしたりしたい。でもそれがなくなると困ってしまう地元の方がいる。だから「運営を続けてください」と自治体が補助金を出すわけです。そうした背景は、地元の方たちの間でもあまり知られていないんじゃないでしょうか。理解を得たり議論を起こすということでは、自治体の側からもっと「公的な支援を入れて運行しているものです」と広く提示してきてもよかったんじゃないかと、今更ながら思います。

――なぜ今そう思われるんでしょう。

小笠原 今回のお話の肝でもあるのですが、公共交通機関というものに対する地元の方たちの認識を変えていくことが重要だからです。まず前提として、公共交通機関というものは「儲かる」とも言えるし「儲からない」とも言えます。

 ひとつには、稼ぎ方の問題があります。今や鉄道事業だけで業績を維持している鉄道会社はそう多くないはずです。鉄道会社は基本的に、鉄道事業を行うのとともに沿線を開発して周辺の事業を一体化することで成り立っています。ターミナルの駅に行けば電鉄系の百貨店やスーパーがあったりレストランがあったり、路線終端近くの郊外に遊園地やリゾートホテルを建設して運営したり、グループ傘下の不動産会社が建てて売っているマンションがあったりしますよね。

――宅地開発をして住人を増やし、平日は彼らを職場に運んで休日は沿線の娯楽施設で遊んでもらうという、阪急電鉄創業者の小林一三が生み出したビジネスモデルですね。

小笠原 そうです。でもそれは、ある程度以上の乗降客数を前提として成り立っていて、つまり東京を筆頭とした大都市圏における稼ぎ方です。それができない地方での事業は、鉄道会社からすれば鉄道事業だけで勝負を迫られてゆくわけです。

 一方で、近年地方の鉄道は乗客の減少もあってダイヤ改正によって本数が減ったり車両数が減ったりして、混雑率が上昇しています。そうすると地元の方からは「電車の待ち時間が長くなった」「以前はゆったり座れたのに」と利便性が下がったことに不満が出るわけです。実はもうそこまで切り詰めないと路線を維持できない状況になっていることを、市民の側が認識できていないケースが多々見受けられます。

――JR九州社長が記者会見で「『鉄道、ずっと頑張ってくれよな。でも俺たち、実際、日頃乗る機会全然ないもんな』という地元の方がたくさんいる」と発言していました。各地でこういう状況が起こっている?
https://news.yahoo.co.jp/articles/fe009cd5ef7047ac1be481e4e3700f1ad6aaf298?page=1

小笠原 私は仕事柄あちこちの地方に行きます。自動車免許を持っていないので、どこにでも電車とバスを乗り継いで行くんですね。そうやって向かった地方創生などの会議などで「今日、ここまで公共交通機関に乗ってきた人はいますか?」と聞くと誰も手を挙げません。でもみんな、公共交通機関をなくしてほしくはない。各社が悩んでいるのは、まさにそこですよね。鉄道もバスも、主に高校生が通学のために利用しているだけで、大人はみんな自家用車で移動しているような状況があるわけです。そんな地域の現実の中で、今までのものを全部維持するのかどうか、住民の方も含めて考えなければならない。

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