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白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授「勘違いの地方創生」【7】

崖っぷちの地方公共交通機関「乗らないけど維持して」住民との温度差をどう埋める

金沢ですら維持できない…北陸鉄道「上下分離方式」の衝撃

――とはいえ事業者からすれば、いくら公共政策であるといっても自治体と心中するわけにはいかないですよね。

小笠原 2022年5月、北陸鉄道が資本金を減資し、自治体に「上下分離方式」を提案するという発表がありました。これは非常にショッキングなニュースです。上下分離方式とは、鉄道の運行は事業者が行い、線路や運行に付随するインフラは行政が保有する形式です。資本金を減資することで中小企業になり、法人事業税などの税負担を減らすことができます。これが意味するのは、北陸の代表的な都市である金沢市の公共交通機関を担う事業者ですら、そこまで追い詰められているということです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC197W8019052022000000/

――金沢市は人口約46万人、観光人気が高く旅行で訪れる人も多く、栄えている地方都市のイメージです。そんなところでも立ち行かなくなっている。

小笠原 いよいよ自治体側も、事業者との議論のテーブルにつかなくてはならなくなっています。JR各社はこれまでずっと自治体さんに「議論に参加してください」と呼びかけてきました。でも席についてもらえなかったんですね。なぜなら、席についたらその時点で「どう廃止するか」の話にしかならないと自治体はわかっているから。最近ですと、留萌線の段階的廃止についてJR北海道と自治体が合意しましたね。

――2023年3月末で一部区間を廃止し、残る区間も2026年3月末で廃止するJR側の案を、自治体が受け入れたというニュースがありました。沿線の自治体の首長たちは「できるなら残したかったがやむを得ない」とコメントしています。
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20220830/7000050133.html

小笠原 私は北海道の出身なのでわかるんですが、北海道内は鉄道に並行して高速道路や高規格の国道が整備されてきています。留萌線も並行していい道路がありますね。だから留萌の人が札幌に行こうと思ったら、おそらく高速バスを使うんです。ゆえに地元としても「やむなし」という合意があったんでしょう。

 おそらく北海道はこれから5~10年の間に路線が一気に減っていきます。北海道新幹線の整備に伴って、函館本線の長万部~小樽間はすでに廃止が決定しました。まだわかりませんが、もしかしたら長万部~函館間も廃止の方向に議論が向かうかもしれません。ただそうすると北海道から東京へ鉄道による貨物輸送ができなくなってしまう……と、このように、地方の公共交通機関をめぐっては、とにかく後ろ向きな話が山のように積み重なっているんです。
https://news.railway-pressnet.com/archives/37948

――今回、これまでの連載の中でも屈指の希望がない回になってしまいました……。

小笠原 真剣に話すと、地域の底が割れてしまう課題です。でも早く取り組まないと、議論しているうちに地域が崩壊していくんですよ。地獄だと思わないで、現実の問題として立ち向かっていくしかない。むしろ、そういう状況だからこそ、これまでは認められなかったことに挑戦できる機会かもしれませんよ?

――どういうことですか?

小笠原 たとえば、個人間での車の乗り合いを認めることも解決策の一つです。例えば「私、今日役場まで行きますが誰か乗りますか?」「じゃあお金払うので乗り合いさせてください」というのは日本では一般に白タクと呼ばれて法律で禁じられていますが、今後シェアリングエコノミーの観点から考えるに有効な手段となるかもしれません。実現にはまだ道程は長いと思いますが「ライドシェア」と呼ばれるように、実際に新たな仕組みや手法として政策提言や検討をする方々もおいでですね。あるいは、高校生しか乗らない路線を廃止するのであればその代わりに、大半の学校で禁じられているバイク通学や、今なら電動キックボードでの通学を認めるというようなアイデアも考えられます。

 それくらい奇抜で破天荒な発想も議論の俎上に上げていっていいと思うんです。いずれもこれまでの発想から考えれば違法だったり地域や学校の運営としては到底認められないということになるかもしれませんが、前提を変えたり自分たちの意識をバージョンアップしてゆくと活路が見いだせることはあるかもしれません。夢も希望もないけれど、現実を乗り越えようとするなら従来から飛躍して無茶をしてみる必要があるんじゃないでしょうか。

 

 

斎藤岬(ライター)

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1986年、神奈川県生まれ。編集者、ライター。

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さいとうみさき

小笠原伸(白鴎大学経営学部教授、白鴎大学ビジネス開発研究所所長)

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1971年生まれ。白鴎大学経営学部教授、白鴎大学ビジネス開発研究所所長。都市戦略研究、地域産業振興、ソーシャルデザインなどを専門とし、国土形成計画や地域活性化・地方創生の現場に携わる。

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おがさわらしん

最終更新:2023/02/08 19:56
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