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白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授「勘違いの地方創生」【7】

崖っぷちの地方公共交通機関「乗らないけど維持して」住民との温度差をどう埋める

コミュニティバスが体現する「公共交通機関」の難しさ

――一方で、高齢者の運転免許返納を促進する流れもあります。自家用車を手放してもらうには代わりの足が必要ですが、そのあたりはどうなっているんでしょうか?

小笠原 コミュニティバスやデマンドバス、デマンドタクシーが注目されるようになっています。よくあるのはハイエースに7~8人乗せて路線を回るような形ですね。

――それは誰が運営しているんでしょう?

小笠原 まず前段階をお話しておきましょう。一般的な乗合バスが運行しないエリアはいろいろ事情はあれどもつまりは儲からないエリアです。でもどうしても交通機関があったほうがいいところに関して、役所が「路線を敷いてくれないか」とバス会社にお願いしたり運営費を行政が補填したり、また自分たちで路線を敷くパターンが20~30年前から出てきました。いま、全国の行政の中でコミュニティバスは流行りの施策です。

 ただし、コミュニティバスとはなんぞやという定義はあまり固まっていないんですよ。今言ったように、行政が自分たちで運営するパターンもあるし、事業者にお願いして補助金を出しているパターンもある。ただ、いずれにせよ行政が税金を投入している以上、なんらかの評価をする必要があります。

――KPIを設定しなければならない。

小笠原 でも、地方に行くとわかりますが、コミュニティバスは乗客が少ない路線があるんですよ。それは当然のことで、乗客が多ければ一般的な乗合バスの路線があるはずなんですから、ここで乗客数を評価の対象にするのはよく考えれば不思議な話です。バス会社は「こことここを結べば儲かる」と考えて路線を敷きますが、コミュニティバスは「必要があるから運営する」という発想ですよね。これは昔から公共交通機関の考え方としてよく言われる話で、東京圏でいうと東京メトロと都営地下鉄の違いがわかりやすいと思います。

 東京メトロはその成り立ちからして準民間企業で、たとえば銀座線の当初の売りのひとつは沿線の百貨店を地下鉄が結んだということでした。繁華街に向かう足として使ってもらって稼ごうという路線です。一方、東京都交通局が運営する都営地下鉄は、はっきり言ってあまり利便性のいい地域を走っていないですよね。

――住んでいないと行かない駅が多いイメージですね。

小笠原 それは都営地下鉄が、東京都の政策において「ここに鉄道が必要だ」となって敷かれた路線だからです。郊外のニュータウンや高速鉄道が未開通だった地域の住民を都心に運ぶ路線がなければならないからつくられたといえばいいでしょうか。もちろん東京の地下鉄建設は大きな政策の中で検討されてきたのであまり単純化はできませんが、でもこのように、ひとくちに「公共交通機関」といっても、その中には民間の経営センスと行政の施策という部分が入り混じっているんです。その点には注意が必要です。

 しかしいずれにせよ、現時点で地元の公共交通機関にどれくらい税金が入っていて、どれくらいの人が乗っているのか、知らない人が大半だと思います。いくら「必要だ」という声があるとはいえ、その成果とともに年間数百万円、数千万円をかけてコミュニティバスが赤字を生み続けているとなれば、直接の利用者ではない地元住民の方が「やめてしまえ」と言い出してもおかしくない。

――運賃を上げるわけにはいかないんでしょうか? そもそも客数が少なければ多少値上げしたところで焼け石に水かもしれませんが。

小笠原 難しいと思います。どこも非常に安価な価格設定で、それが当たり前になっている。

 私がいま住んでいる栃木県では、来年宇都宮市で新たに路面電車(LRT:Light Rail Transit)が開業予定です。個人的には都市経営の新しい切り札としてたいへん頑張ってほしいと願っているんですが、開業が2度延長になって工事費が当初予算から1.5倍くらいまで膨れ上がっています。公共交通機関は本来、コストをかなり厳密に見て「これくらいの予算がかかるけど、乗客見込み数がこれくらいなので、◯年かけて回収します」という仕組みをとっています。でも工事費がかなり膨らんだせいで、今後いくら乗客を乗せても採算が合うのかわからなくなるのではという不安が広がっています。LRT建設についてはこれまでもたびたび宇都宮市政における争点になっています。

――なぜそんな予算超過に……。

小笠原 公共工事には不確定要素が多いのは仕方ないことではあるのですが、市の発表や報道を見るに想定外の出来事が多かったということのようです。開業延期も大きいですが、鬼怒川を渡る橋を新たに建設する中での地盤改良工事等に追加の予算がかかったとありますね。

 もともと宇都宮は周囲に自動車生産工場や部品生産を行う企業も多数立地している自動車交通の街で、しかも鉄道は基本的に南北にしか走っていません。それを横につないで利便性を向上するという理念はすごく真っ当です。だから私も応援しているんですが、開業前からかなり苦しい状態になっていてたいへん心配しています。宇都宮LRTも、稼ぐ手段としての公共交通機関と、公共政策としての公共交通機関の落とし所はどこなのかという問題を示してくれています。宇都宮LRTは試運転で脱線をしてしまったりと各所が心配していますが、どうにか経営では安全運転を心がけてほしいものですね。

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