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『トムとジェリー』某国民的アニメのように3D化すればいいってもんじゃない

「マンガ的な世界」にこだわり、『トムとジェリー』の本質を見せる

 前作から29年ぶりの新作劇場版となった本作はアニメだった前作と違い、今回はアニメと実写を組み合わせた作品だ。

 今や3Dアニメの技術は進化を続けており、実写と見紛う映像を作り出すことも可能だ。この時代に『トムとジェリー』はなんと3Dではなく2Dを採用している。役者と一緒に平面の2Dキャラが右往左往している! しかも動きはリアルな生き物らしいタッチではなく、カートゥーン風の誇張された「マンガ的な」動きだ。

 この画面、はっきりいって違和感バリバリである。が、それがマイナスにはなっていない。プラスにしかなっていないのだ。監督のティム・ストーリーはマーベル・コミックの映画化『ファンタスティック・フォー』2部作を手掛けた人物で、マーベル映画がまだ、シネマティック・ユニバースなるビッグプロジェクト化する以前の作品。手足がゴムのように伸びる男や全身が燃える炎の男や全身岩石男とか、マンガとしか思えないようなキャラクターを使って能天気な作品に仕上がっていた。そう、彼は「マンガ的な世界」の表現に長けていたのだ。

『ファンタスティック・フォー』は監督を変え2015年にリブートされたが、マンガ的な表現を全部捨ててリアルに、シリアスに徹してまったく面白くなくなっていたので失敗した。

 ティム・ストーリーは往年のカートゥーンアニメを実写と融合する際に「オリジナルのルックに忠実にする」ことを心掛けたという。最新の3DCGで映像化することだって可能だったはずだ。だが監督はそうしなかった。3Dアニメでは「らしさ」が出ないからだ。

 確かに最初は実写に2Dのキャラが紛れ込んでいるのは違和感しかないが、トムとジェリーのドタバタアクションを見ているうちにそんなことは全然気にならなくなるのだ。これはトムとジェリーというキャラクターの持つパワーで、それをリアルな3Dアニメにしたら逆にパワーが失われるだろう。

 某日本の国民的アニメ作品みたいになんでもかんでも3Dアニメ化すればいいってもんじゃないんですよ。

 そして物語面でも見どころがある。ベンとプリータのセレブカップルはお互い愛し合っているのに結婚式をめぐってすれ違う。こじんまりとした式でもいいと思っているプリータの意見を聞かず、ベンはサプライズを仕掛けたり、上流階級の父親にいいところを見せようとホテルに象を持ち込んで象の背に乗って登場しようとする。さらに孔雀を飛ばし、トラを運んでくる。動物たちはもちろん平面の2Dアニメだ! そこにトムとジェリーが紛れ込んだことで収集がつかなくなり、動物たちはホテルを破壊して大暴れ、結婚式は台無し。

 仲良しなのにケンカしてしまう、というのはトムとジェリーと同じだ。ふたり(二匹)は後半でケイラと約束を交わし、式の邪魔をしないようニューヨーク見物をする。ふたりで、仲良くだ。天敵同士だって仲良くなれる。けれどケンカすることもある。ネコとネズミも人間も、仲良くケンカしてるうちは大丈夫さ!

 トムとジェリーが80年以上も人気を誇る理由が、この映画でわかります。

 

 

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/02/10 19:00
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