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社会がみえる映画レビュー#4

実際にあった修道女の同性愛裁判を描いた映画『ベネデッタ』の圧倒的なエンタメ性

実際にあった修道女の同性愛裁判を描いた映画『ベネデッタ』の圧倒的なエンタメ性の画像1
C) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

 2月17日よりフランス映画『ベネデッタ』が公開されている。監督は『ロボコップ』や『スターシップ・トゥルーパーズ』などのポール・ヴァーホーベン。17世紀にレズビアン主義で告発された修道女のベネデッタ・カルリーニを追う「実話から着想を得た物語」となっている。
直接的な性描写のためにR18+指定がされており、パッと見のイメージからお堅い印象を持つかもしれないが、さすがはヴァーホーベン監督、エンターテインメント性も抜群の内容に仕上がっていた。その理由と魅力を記しておこう。

予想外の悲劇も起こる、一触即発のパワーゲーム

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C) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

 あらすじを記そう。修道女のベネデッタは家族から逃れてきた若い⼥性バルトロメアと出会い、秘密の関係を深めていた。ある晩ベネデッタに“聖痕”が現れ、司祭の前でも奇跡を起こしたことから修道院長に任命されるのだが、そのことが周囲に波紋を広げ、元院⻑の娘であるクリスティナからも疑惑と嫉妬の⽬を向けられる。

 つまり、ベネデッタは強大な権力を手にする一方で、同性愛者だと暴かれれば激しい追及は免れない立場。その状況で、彼女を貶めようとする人々の思惑や、その悪意への抵抗が交錯し、時には予期せぬ悲劇も起こる、一触即発のパワーゲームが展開する。

 ベネデッタとバルトロメアの関係は愛情と憎悪が激しく入り混じるもので、それこそ「百合」ものとして尊い。それでいて、宗教をビジネスとしてしか捉えていない修道院長や、欲にまみれた教皇⼤史など、わかりやすい悪党もいる。

 一方で、単純な善と悪では計り知れない“業”を抱えた者もいる。そのような豊かな人間模様と、それぞれの力関係が急激に変わっていく様が、「いったいどうなるんだ?」とハラハラドキドキさせるサスペンスとして大いに楽しめるのだ。

 さらに大サービスと言えるのが、大掛かりなクライマックス。具体的にどういう展開になるかは秘密にしておくが、エンタメに振り切った「見せ場」も楽しみにしてほしい。

男が⽀配する社会で生きる、女性へのエール

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C) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

 ヴァーホーベン監督は、本作の主人公であるベネデッタを、自身の監督作『氷の微笑』『ショーガール』『ブラックブック』『エル ELLE』のヒロインたちの「親戚」だと語っている。それは自身の映画で常に女性が中心にいることと、以下のベネデッタの姿に感銘を受けたためだという。

 「この時代、女には何の価値もなく、男に性的喜びを与え、⼦供を産むだけの存在とみなされていたにもかかわらず、ベネデッタは手段はどうあれ、完全に男が支配する社会で、才能、幻視、狂⾔、嘘、創造性で登り詰め、本物の権力を手にした女性だった」

 民衆の支持を得て、修道院長に就任する。男性権威主義的な当時の社会において、それは革新的なことだったのだろう。そのベネデッタは、幼い頃から聖⺟マリアやキリストのビジョンを見続け、聖痕が浮かび上がりイエスの花嫁になったとも報告もしている。

 それが権力を手にするための嘘だったのか、はたまた幻影だったのかはわからない。だが、少なくともこの映画では、それを否定的には捉えていない。むしろ、ベネデッタはキリストを心から信じ、彼を一種のヒーローのようにみていた「純粋さ」が語られている。

 それをもって、本作は同性愛を肯定しつつも、宗教そのものは否定していない。それは現代にも通ずる、抑圧的な社会に生きる女性にエールを送る、フェミニズムのメッセージにもつながっている。同様に、実際の裁判を扱い、女性の差別的な言動への激しい怒りが込められた、リドリー・スコット監督の映画『最後の決闘裁判』を思い起こす方も多いだろう。

 もっと下世話な感じで言えば、「クズな男や酷い社会に負けずに(たとえ客観的には間違った行動でも)自分の道を信じて突き進む女性は、超カッコいいぞ!」という、ヴァーホーベン監督のこれまでの作品にもあった、女性へのあこがれや敬意をわかりやすく押し出した内容とも言える。

 つまりは題材と作家性が見事に一致しているというわけだが、さらに良い意味で悪趣味で赤裸々なエログロ描写と、圧倒的なエンタメ性をもって示してくるのも、ヴァーホーベン監督の「らしさ」であり、支持したいことだ。

同じくR18+指定の『ボーンズ アンド オール』が同日より公開

 この『ベネデッタ』の公開日である2月17日より、同じくR18+指定がされた、アメリカ映画『ボーンズ アンド オール』も公開されている。こちらは、「人を喰わずにはいられない若い男女」を描いた作品であり、刺激の強いカニバリズムの描写がある。

 主人公の2人は人を喰らうたびにどこかに逃げるしかない、『俺たちに明日はない』のような逃避行を繰り返す。彼らは「そうすることでしか生きられない」ためにより悲壮感が漂うし、社会になじめない若者のメタファーとして捉えることもできるだろう。テイラー・ラッセルとティモシー・シャラメという若手の超実力派俳優はもちろん、アカデミー賞俳優マーク・ライランスの「気持ち悪い謎の男」が凄まじいインパクトだった。

 「人を食べて生きる若者たちを描いて、世界が賛否両論」という触れ込みではあるが、実際は「秘密を周りに隠し続ける主人公2人の関係性は感情移入がしやすく、エンタメ性も高い」内容であり、それは『ベネデッタ』とも共通している。ぜひ、あわせて観てみてほしい。

『ベネデッタ』
2月17日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開
【キャスト】
ベネデッタ・カルリーニ/ヴィルジニー・エフィラ
シスター・フェリシタ/シャーロット・ランプリング
バルトロメア・クリヴェッリ/ダフネ・パタキア
教皇⼤使ジリオーリ/ランベール・ウィルソン
ペシアの主席司祭/オリヴィエ・ラブルダン
シスター・クリスティナ/ルイーズ・シュヴィヨット
【スタッフ】
監督/ポール・ヴァーホーベン
脚本/デヴィッド・バーク ポール・ヴァーホーベン
原案/『ルネサンス修道⼥物語 聖と性のミクロストリア』J.C.ブラウン著
⾳楽/アン・ダッドリー
撮影/ジャンヌ・ラポワリー
編集/ヨープ・テル・ブルフ(ACE, NCE)
美術/カーチャ・ヴィシコフ⾐装/ピエール=ジャン・ラロック
⾳響/ジャン・ポール・ミュゲル
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ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/02/17 11:00
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