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米国への復讐心に燃えるイランの軍事的脅威高まる…パナマ運河に軍艦派遣を計画

米国への復讐心に燃えるイランの軍事的脅威高まる…パナマ運河に軍艦派遣を計画の画像1
パナマ運河の位置を示す衛星画像(「Wikipedia」より)

 中東のイランが中南米で軍事的影響力を強めている。ブラジルに軍艦2隻を寄港させて米国を怒らせたほか、今年末には戦略的要衝のパナマ運河に軍艦を派遣することを明らかにした。宿敵・米国の「玄関先」に進出し、喉元からけん制することが狙いだが、ロシアのウクライナ侵攻で国際秩序の脆弱性が露呈された後だけに、北米から中南米につながる西半球が「世界の火薬庫」になるのではないかとの懸念が浮上している。

 イランの軍艦「マクラン」と「デナ」がブラジル・リオデジャネイロに寄港したのは2月26日だった。ブラジルでは昨年の大統領選で「南米のトランプ」と言われた右派のボルソナロ前大統領が敗れ、左派のルーラ大統領が1月1日に誕生した。ルーラ大統領は2003年から2期、大統領を務めていたことがあるが、その頃からイランと親しかった。

 このためイランは、2国間関係強化のため2隻の軍艦をブラジルに向かわせることをルーラ大統領に提案したが、米国が圧力をかけたため、寄港計画は宙に浮いていた。

 そうした中、ルーラ大統領は2月に米国を訪問し、バイデン大統領の大歓迎を受けた。ボルソナロ前大統領の極右政策にうんざりしていたバイデン政権の大々的なセレモニーだった。ところが、ルーラ大統領は訪米を終えると、米国の意向を無視する形でイランの軍艦の寄港を認めたのである。

 米国は2月に、違法取引やテロ活動にかかわっていたとしてリオデジャネイロに寄港したイランの軍艦を制裁の対象に加えていた。にもかかわらずルーラ政権が寄港を認めたことに、米国はかなりいら立っている。

 エリザベス・バグレイ駐ブラジル米国大使は「ブラジルは主権国家だが、米国はこれらの軍艦をいかなる場所にも寄港させるべきではないと固く信じている」との声明を発表し、ルーラ政権への不快感をあらわにした。

 イランの目論見通りに事が進んだが、そのイランは米国を怒らせた軍艦を今年末に、世界的な戦略的要衝であるパナマ運河に派遣しようとしている。実現すれば、イランの軍艦が米国の南部国境から約4000キロの距離に近づくことになる。パナマ運河を通過すればイランの軍艦が初めて太平洋に入ることになり、米国の安全保障上、極めて重大な問題となる。

 この計画は1月にイラン海軍のシャフラム・イラニ司令官が明らかにした。イランはこの40年、中南米の国々への大使館の開設など政治的、経済的な関係強化に務めてきた。反米のキューバやベネズエラ、ニカラグアは米国から制裁を受ける「仲間」として親密な関係を築いている。パナマ運河への軍艦派遣はこうしたイランの中南米政策の一環で、シャフラム・イラニ司令官は「国際水域でのイラン軍のプレゼンスを強化する」と述べている。

 パナマ運河への軍艦派遣計画は、当然、宿敵・米国を標的にしたものだ。計画が発表される1週間前の1月3日、イランの首都テヘランでは厳かで凄みのある式典が開かれていた。3年前(2020年)のこの日、イラン革命防衛隊の精鋭組織「コッズ部隊」を率いてきたカセム・ソレイマニ司令官が、イラクの首都バグダッドで米軍の空襲に遭い死亡した。米軍による暗殺で、式典は「殉教者」ソレイマニ司令官を悼むものだった。

 式典ではイランのライシ大統領が演壇に立ち、「ソレイマニの血を忘れない。ソレイマニが流した血への復讐は確実なものであり、殺人者、加害者が安らかな眠りにつけないことを、米国人は知っておく必要がある」と述べ、米国への報復を改めて誓った。

 日本では報じられることが少なくなったソレイマニ司令官暗殺事件だが、イランの米国に対する復讐心は衰えることはない。イラン軍艦のパナマ運河への派遣は、復讐心の延長線上にあり、中南米が米国とイランの対立の舞台として浮かび上がってきたことを示している。

 中南米でのイランは「裏の顔」を度々、垣間見せる。1992年3月、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにあるイスラエル大使館で自爆テロがあり、29人が死亡した。1994年7月にはブエノスアイレスのユダヤ人協会本部が爆破され、85人が死亡した。2つの爆破テロ事件はイランの関与が疑われたものの、真相究明に至っていない。

 イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派武装組織「ヒズボラ」はブラジル、アルゼンチン、パラグアイ3カ国が国境を接する地域「Tri-Border Area(TBA)」を拠点に麻薬取引やマネーロンダリングで巨額の資金を得ている、と言われている。イグアスの滝に近いパラナ川沿いの地域で、物流の中心地でありながら当局の目が届かない地域で、闇のネットワークを広げていると米国の情報機関などは見ている。

 ロシアによるウクライナ侵攻ではイラン製の「カミカゼ・ドローン」と呼ばれる無人機がウクライナ各地を爆撃している。ロシアからの注文が多く、イラン国内だけでは製造しきれないため、イランはドローンの製造技術をイランから学んだベネズエラに「カミカゼ・ドローン」の製造を外注している、と西側当局は見ている。中南米のきな臭さは増すばかりだ。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

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最終更新:2023/03/12 06:00
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