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中国の偵察気球だけじゃない…米国を脅かす「未確認飛行現象」とは?

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今年1月に公表された米国家情報長官室の「2022未確認飛行現象(UAP)報告」

 米国のテレビ3大ネットワーク(ABC、NBC、CBS)は毎週日曜日の午前中に政治番組を放送する。その時々のニュースの中心にいる政治家や専門家を招いて、司会のジャーナリストが鋭い質問を投げかけるスタイルだが、2月19日の各社の番組には、ドイツ・ミュンヘンで中国外交トップの王毅氏と会談したばかりのブリンケン国務長官が出演した。

 国務長官が3大ネットワークの同時間帯の番組に「平等に」出演することは、政権が国民に強いメッセージを発しようとしていることを意味する。ブリンケン国務長官は3番組のうち、NBCの『Meet the Press』で「偵察気球問題で中国から謝罪の言葉はなかった」と語り、中国側の態度を批判した。番組で発した「No apology」という言葉は、他の主要メディアも見出しで取り上げて、発言を大きく報じた。

 米国民が中国への怒りを新たにした週末だったが、週が明けた20日、今度はウクライナのゼレンスキー大統領の発言が、米国民の中国への不信感を増幅させた。

 ゼレンスキー大統領はドイツの大手新聞、Die Weltとのインタビューに「もし中国がロシアと手を組めば、世界大戦が起こるだろう」と話した。

 中国の偵察気球問題で米中の関係が一段と冷え込む中、バイデン政権は、中国がロシアに軍事支援をする兆候をつかんでいると言われている。偵察気球を撃ち落とした米国の対応を「ヒステリックだ」と非難する中国が、米国への反発をさらに強めてロシア寄りの姿勢を鮮明し、軍事支援に踏み切れば、世界レベルでの軍事衝突の危険性が増大する。

 中国の偵察気球の問題とロシアのウクライナ侵攻が「ひとつの糸」で結ばれる恐怖を、米国民は感じ始めているようだ。

 その一方で、偵察気球の問題はUFO(未確認飛行物体)論議と切っても切り離せないものでもある。中国の偵察気球がニュースとして登場した際、2017年12月にニューヨーク・タイムズが特ダネで報じた衝撃的なUFO映像のことが頭によぎった軍関係者、ジャーナリストは少なくない。米海軍の戦闘機F/A18Fスーパーホーネットのパイロットが2004年11月、サンディエゴ沖の太平洋上で通常訓練中に、正体不明の飛行物体に遭遇した。

 映像には、瞬時に移動する光のような物が鮮明に映し出されている。パイロットをもてあそぶかのような動きだった。米海軍はその後、その映像が真実であることを認めたが、異例の公表の背景には米海軍の歴史的な方針転換があった。

 米政府は素性が確認できない飛行物体などを「未確認飛行現象(UAP=Unidentified Aerial Phenomena)」と呼んでいる。米軍はそれまで、UAPの存在そのものについて公式に認めることはしなかった。そうした環境の中で、「トップガン」と呼ばれる優秀なパイロットを含めた米軍の戦闘機パイロットは、勤務中にUAPを目撃しても上官らに報告しなくなっていたという。「UAPを見た」などと話せば、精神的にどうかしてしまったのかと上官に勘繰られ、栄光のパイロットの座を奪われてしまうと恐れたからだ。

 しかし、こうした習慣が続いてしまえば、中国やロシアが超音速の兵器やスパイ機器を開発し、それを目撃しても報告さえ上がってこないことになってしまう。こうした事態を避けるためにUAPの存在を軍が公に認めた。パイロットらが安心して報告できるようにするためだ。

 この方針転換は、裏を返せば中国やロシアが高い高度を飛ぶ兵器やスパイ機器を開発していることへの強い警戒感を意味していた。

 中国人民解放軍の機関紙、解放軍報は2011年7月5日付けの紙面に「宇宙に近い空間――無視されるべきではない戦略的資産」と題する記事を掲載した。「近年、宇宙に近い空間は外国メディアで頻繁に取り上げられており、多くの軍事評論家は軍によって無視されてきた特殊な領域だとしてきたが、この空間は今やホットスポットの地位にまで昇格している」と記している。この時点ですでに、中国は高い高度の空間での武力開発に力を入れていた。

 ニューヨーク・タイムズなどによると、米当局者は宇宙に近い空間での中国の軍事技術はかなり進んでいると警戒感を強めているという。中国の偵察気球問題にバイデン政権が神経を尖らせるのは、こうしたことも背景にある。

 米国が2月に撃ち落とした4つの飛行物体のうち、中国の偵察気球だと断定できているのは4日にサウスカロライナ州沿岸で撃墜されたものだけだ。他の3つについては残骸の回収さえ十分にできない可能性がある。

 米国の国家情報長官室が昨年6月に公表したUAPについての報告書では、2004~21年に報告された144件のうち143件は実態が解明できなかったという。さらに今年1月、国家情報長官室は追加の報告書を発表した。過去17年間で新たに366件のUAPが確認され、このうち163件は気球、26件はドローン、6件は鳥やビニールなどの飛翔・浮遊物と断定されたが、残る171件については原因が特定できない目撃情報で、そのいくつかは「異常な飛行特性、実行能力を示しているように見える」という。

 宇宙から来たのか、中国から来たのかわからないが、米国はUAPの脅威にさらされている。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

ことといとおる

最終更新:2023/02/23 07:00
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