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社会がみえる映画レビュー#7

今すぐアニメ映画『BLUE GIANT』を映画館に観に行くべき!と断言できる理由

今すぐアニメ映画『BLUE GIANT』を映画館に観に行くべき!と断言できる理由の画像1
C) 2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会

 今の映画館は、アカデミー賞で7冠を達成した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』や庵野秀明監督最新作『シン・仮面ライダー』などの話題作が席巻している。

 だが、その大渋滞の中でも、もっとも優先して「映画館で観るべき」作品は、アニメ映画『BLUE GIANT(ブルージャイアント)』だと断言する。

『スラムダンク』級の高評価と口コミの盛り上がり

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C) 2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会

 『BLUE GIANT』はシリーズ累計1000万部を突破した人気漫画が原作であり、このアニメ映画はさらなるムーブメントを起こしている。2月17日の公開からSNSで絶賛の口コミが続々と寄せられ、現在は映画.comやFilmarksで4.3点など、あの『THE FIRST SLAM DUNK』級の超高評価を得ている。

 その口コミの影響は大きく、興行収入ランキングは1週目は8位、2週目は9位だったものの、3週目では6位へと大幅にアップし、4週目でも6位をキープ。リピーターも多く、サウンドトラックがiTunesでのアルバムランキング1位を獲得、劇場ではサントラCDの売り切れも続出。3月9日には観客動員数35万人突破を記念した本編映像も公開されている。

 3週目で興行収入ランキングが大きくアップする例は、『RRR』や『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』など、ごく限られている。『アイの歌声を聴かせて』や『ハケンアニメ!』など公開直後は動員に苦戦した映画も、3週目で満席に近い劇場が相次ぐほどの人気を得た。「口コミの効果が明確に表れるまでは2週間かかる」が、それをもって「作品の力を証明した」とも言えるだろう。

 そして、『BLUE GIANT』は観る人を選ばない。後述する理由で、題材となるジャズをまったく知らない人にこそおすすめできるし、物語上で難しいところはないので老若男女が楽しめる。そして、映画館で観てこその「凄まじい映画体験」がある。決定的なネタバレにならない範囲で、その理由を記していこう。

3人それぞれの成長が演奏にシンクロする

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C) 2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会

 本作の内容は「18歳の若者たちがジャズバンドを組む青春音楽映画」と、シンプルと言ってもいい。

 実質的に3人いる主人公は、「世界一のジャズプレイヤーになる」と信じて疑わないサックス奏者・宮本大、自信家であるが故に不遜なところもあるピアニスト・沢辺雪祈、経験ゼロの素人ながら必死で彼らに食らいつこうとするドラム奏者・玉田俊二と、個性豊かだ。

 そして、彼らの「青春と成長」が「圧巻の演奏とシンクロしている」ことが、このアニメ映画『BLUE GIANT』の大きな魅力だ。

 大は揺るぎない精神を持つ天才で、他の2人を「引っ張っていく」立場。雪祈と玉田は、それぞれ別の理由で「壁」にぶち当たり、その壁を乗り越えるために努力を重ねていく。そして、それぞれの成長が「演奏」そのものにも大きく影響していることが、ジャズの門外漢でも手に取るようにわかるようになっている。

 なぜなら、サックスを馬場智章、ピアノ演奏を上原ひろみ、ドラムを石若駿と、超一流のジャズ奏者が演奏を担当しており、それぞれがキャラクターの成長や感情に合わせた演奏を心がけていたからだ。特に石若駿は担当する玉田というキャラクターが初心者だからこその「あえて下手な」プレイを序盤にしており、だからこそ玉田がその後に「内面も演奏も成長していく」ことへの感動がある。

 そして、演奏シーンでのアニメならではの演出、ダイナミックな構図も大きな感動へとつながっている。本作は全体の4分の1程度が演奏シーンを占めており、それぞれが実写では不可能な、アニメならではの現実からの「拡張」がされているのだ。演奏との相乗効果で、門外漢こそが「ジャズ、すげぇ…!」と感動できるのではないか。

 その感動は、音響が優れ、集中できる、いや「生のライブを観ている」感覚になれる、映画館で観てこそ。さらに、山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音、それぞれの声の演技も文句のつけようがなく、特に声を荒げる場面での感情の「揺らぎ」も聴き入って欲しい。

観た人が「ファンのおじさん」になれる

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C) 2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会

 感情移入を加速させてくれるのは、劇中に「3人の若者を応援する立場のおじさんたち」がいることだ。

 例えば、「大から手作りのビラを受け取って『行く可能性は10%くらい』と言ったおじさん」は、「ジャズにまったく興味がなかった」が「熱意を受け取った」立場だ。それはさしずめ、この『BLUE GIANT』を知らなかった、ジャズを聴いたことがなかったものの、数多くの口コミで熱意を受け取って観に行った現実にいる人を連想させる。

 「雪祈のサインを期待していたおじさん」は、直接的に雪祈の精神面での成長に大きく関わる。自信家であるがゆえに他人を見下していた彼の物語にも、ぜひ注目してほしい。

 そして、「玉田の初心者であるがゆえの成長を期待するおじさん」の言葉は、もっとも多くの人が自分を重ね合わせ、涙するのではないか。

 さらには、ジャズバーの店主であるアキコさんもまた、3人をずっと応援し続けていた。この映画を観ていた観客もまた彼らを応援し、その成長を観続けていたからこその、あのクライマックスに震えるほどの感動がある。それはやはり、前述したキャラクターの感情や成長もはっきりと表れた、凄まじい演奏とアニメの表現があってこそだ。

 また、序盤に大はジャズの一端を知った玉田に、「ジャズ知らねえ玉田にも届くんだから、みんなにも届くべ」とも言っていた。それはまさに、ジャズを知らない人にもジャズの凄さを届けた、この映画の作り手、そして受け手の関係にも重なる言葉でもあった。

欠点もあるが、ハードルをはるかに飛び越えた圧倒的なパワー

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C) 2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会

 ここまで絶賛したが、この『BLUE GIANT』には欠点もある。特に、多くの方が指摘している通り、3DCGの荒さはどうしても気になる。それまでの手描きのキャラクターの印象とかけ離れていて、没入感を削がれてしまうのはもったいない。だからこそ「ここぞ」という時の、「一枚一枚が手描きの凄まじい演奏」がギャップとなり圧倒されるというのは、皮肉的でもある。

 個人的に気になったのは、終盤で「涙を流している」カットが多く使われていることだった。映像作品であまりに劇中のキャラクターが泣きすぎているというのは、逆に冷めてしまいかねない諸刃の刃。これは終盤で同じく音楽の力が重要となるアニメ映画『竜とそばかすの姫』でも思っていたことである。トゥーマッチにも思える涙の演出は、もう少し控えてもよかっただろう。

 だが、そんな欠点も「100億点マイナス30点」くらいに思えてしまうほどのパワーが本作にはある。

 何より、原作漫画では「圧倒される演奏」を画の力に加えて想像で補うことができるが、映画ではその演奏を実際に聴かせて、本当に圧倒させなければならない。その大きすぎるハードルを、超一流のジャズ奏者の、キャラクターそれぞれの感情や成長をも表現した演奏と、アニメだからこその表現でクリアーした、いやはるかに飛び越えていた。

 原作漫画の10巻のあとがきで「音が聴こえる」という読者からの言葉に、原作者の石塚真一が涙するという一幕があるが、その音をこの映画は完全に表現してみせた、とも言えるだろう。

 繰り返しになるが、今もっとも優先して「映画館で観るべき」作品は、アニメ映画『BLUE GIANT』だと断言する。というか、話題作の大渋滞のおかげで上映回数が少なくなってきているので、最優先で観てください。お願いします。

『BLUE GIANT』全国公開中
監督:立川 譲
脚本:NUMBER 8
音楽:上原ひろみ
キャスト
宮本大:山田裕貴/馬場智章(サックス)
沢辺雪祈:間宮祥太朗/上原ひろみ(ピアノ)
玉田俊二:岡山天音/石若駿(ドラム)
配給:東宝映像事業部
原作:石塚真一「BLUE GIANT」(小学館「ビッグコミック」連載)
C) 2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会
C) 2013 石塚真一/小学館

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/03/20 13:00
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