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No.1は『ブラッシュアップライフ』! 一番ガッカリだった作品は…冬ドラマ総括

 初回放送の最後発組で、全11回となった『スタンドUPスタート』が先日最終回を迎え、ようやく民放ゴールデン・プライム帯の冬ドラマがすべて終了した。「ドラマ序盤ランキング」(1月30日公開)で取り上げた作品は最終的にどうだったか、今期ドラマを総括してみよう。

冬ドラマの圧倒的1位は『ブラッシュアップライフ』

『ブラッシュアップライフ』『100よか』…今期一番の期待作は? 冬ドラマ序盤ランキングの画像3
『ブラッシュアップライフ』(ドラマ公式サイトより)

 最終回放送直前にも『ブラッシュアップライフ』については書いているが、やはり今期は本作が圧倒的におもしろかった。

 『鎌倉殿の13人』は三谷幸喜の円熟ぶりに唸る作品だったが、『ブラッシュアップライフ』も、『架空OL日記』や『素敵な選TAXI』のバカリズム脚本のひとつの到達点といえるだろう。あるあるに満ちた会話劇と、そうした何気ない部分からの見事な伏線回収もさることながら、バカリズムらしいメタ台詞、ゲーム好き(特にRPGなど)らしさがうかがえる周回要素などにも引き込まれた。なかでも、90年代後半~00年代を中心とした時代のトレンドや風俗の取り入れ方は、タイムループものであるからこそ「今どの時期か」をわかりやすくする機能的な面もあるうえに、“地方都市のごくごくふつうの女子たち”を描くうえでも重要だったと思われるが、主人公たちと同時代を生きた視聴者をさらに作品世界に引き込む要素でもあった。

 なじみのキャストにも支えられつつ、浅野忠信、江口のりこなどの豪華俳優陣をチョイ役で出してくるのにも驚かされたが、俳優側から「出演したい」というオファーも多かったというのも納得だ。最終回については、バカリズム自身が「自分にとって打ち上げみたいな感じで書いていた」と言っていたとおり、大きなドラマが起こることなく、穏やかなエピローグといった感じだったが、「地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディ」らしい着地でもある。最後にみーぽんの「うちら」発言が意味するところで視聴者を戸惑わせつつ、Hulu独占配信のアナザーストーリーはいい意味でしょうもないエピソード(いい話もあるが)なのも、本作らしい。まだ先に何かあるのではないか、さらなる壮大な伏線回収があるのではと思わせながらも、ただのコメディですよ、と肩透かしで締め括るあたりもバカリズムっぽい。

 あーちんの1周目で「Go to hell」のパーカーを着ていた市役所勤めの河口美奈子が、それまでは同じ人生を何度も繰り返しなぞってきたのに、4周目のあーちんに影響されてそれを止めたことで5周目のあーちんを救い、しかし結局は元の市役所生活に戻って「Go to Hometown」パーカーを着ている、ということが象徴的だ。あーちんがドラマP時代に自分が企画したドラマ(『ブラッシュアップライフ』)のストーリーが地味すぎるということで脚本家や監督によってどんどん“ブラッシュアップ”されてしまったように、4周目と5周目はしっかりと目標を持って人生をやり直していたあーちんだったが、結局は地元に戻って元の“地味”に落ち着く。しかし、それは本当の意味での「元」ではなく、そこにはちゃんとまりりんもいる。まりりん(ぴょろたん)が人生6周かけて手にした結末だと考えると、4人の穏やかで地味な「その後」は、実はかけがえのない時間だ。『ブラッシュアップライフ』というドラマをこうして我々が楽しめたのも、何周目かのバカリズムがようやく掴んでくれた奇跡の一端なのかもしれない。

『リバーサルオーケストラ』はスピンオフまで必見

 「ドラマ序盤ランキング」で期待作からもガッカリ作からも外れ言及しなかったが、今期は『リバーサルオーケストラ』も素晴らしかった。こちらは二度記事を書かせていただいたが、既視感が強いベタなストーリー運びに、正直いって第3話ぐらいまではそこまで引き込まれなかったものの、玉響(児玉交響楽団)のメンバーの結束が深まってオーケストラとして機能し始めてから俄然おもしろくなってきた。初音と奏奈の姉妹ゲンカシーンなど、演技や演出面では第1話から見るべきところは少なくなかったが、ドラマ中盤、物語が動き出してきたことで実力派俳優たちの演技力や、丁寧な演出がより生きるようになり、ストーリーを輝かせてきたように思う。

 前にも書いたとおり、物語自体は特に目新しいものはないが、決定的な悪人といえるキャラクターが存在せず(津田健次郎演じる本宮の小悪党っぷり!)、終始さわやかな音楽モノの青春ドラマとして突き進んだことで、余計なノイズを感じることなく、玉響の面々を応援する気持ちで観ることができ、最後まで晴れやかな気持ちを抱かせてくれた。恋愛要素もなかったわけではないが、あくまでも主軸は音楽であるという割り切り方も英断だっただろう。初音は朝陽に堂々と矢印を向けていたが、最終回で伝えた「あなたじゃなきゃダメなんです!」は愛の告白ではなく音楽仲間としての言葉だったし、最後も指揮者とコンマスとして互いに感謝を伝えあって握手するという終わり方だった。もちろんそのまま手をつないで歩く姿は、2人が結ばれる未来を予感させたが、恋愛要素はあくまで添え物だということが伝わる爽やかなエンディングだっただろう(逆にスピンオフは恋愛面に振り切っている)。

 複雑なものを抱えた“闇”のあるキャラクターを演じることの多かった門脇麦が、とにかく明るくてポジティブで、妙に(オタク的な)早口キャラを演じているのも新鮮だったし、初音の愛らしさは、玉響が結束していく説得力にもなった。田中圭も、クールなようでいて内面は熱く、絶妙な塩梅のツンデレを見せるという役柄は、意外に演じる機会が少ないように思えるが、間違いなく好演だった(特に最後の指揮シーンは熱演のひと言)。

 高階藍子に玉響が頭を下げる最終回の場面で、ヨーゼフだけがそのまま突っ立っている(しかも二度とも)といったところにも表れていたように、細部においても、それぞれのキャラクターがしっかりと立ち、描かれているのも印象的なドラマだったが、個人的には「チャイ5」の演奏シーンの描き方についても拍手を送りたい。この手の音楽作品によくあることとして、演奏シーンの合間に説明ゼリフを挟むことが往々にしてよくある。その必要性もわからなくはないが、本作では、演奏開始から1分ほど後に彰一郎が「すごい……」とこぼすのみで、それ以外には何の邪魔も入らず、7分以上、彰一郎のセリフから数えてもおよそ6分にわたって視聴者の耳を演奏のみに集中させた。オーケストラを主題にしたドラマだからこそ、ちゃんと音楽を聞かせる。当たり前のようだが、残念ながら意外にそこまで思い切った作品は少ないのだ。

 なお、本作を楽しんだ方なら、Hulu独占配信のスピンオフも必見。玲緒と藤谷のなれそめ、蒼と奏奈のその後など、どれも『リバオケ』らしさのあるいい話であり、本編の補完という意味でも非常に満足度の高いエピソードばかりだ。

 今期は『罠の戦争』も大いに楽しめた。復讐モノであり、展開が予想できるベタさがありつつも、俳優陣の演技や演出で楽しめるエンターテインメント性は『リバオケ』などにも通ずるところがある。今期だけでなく、このところは“話数稼ぎ”に映るような話が挟まれるドラマも少なくないが、全11話展開で過不足なく物語を伝え切ったという点でも安定感のある作品だっただろう。作品の世界観からしても、希望はありつつもビターな結末に終わったのも納得だった。鷲津の特異な記憶力の設定が序盤以外はまったく生かされていないなど気になる点もあるにはあったが、些細な問題といえる。それにしても前期の『エルピス—希望、あるいは災い—』といい、麻生太郎氏はいろいろと元ネタになりやすい政治家なのだろうか。

 『警視庁アウトサイダー』は意外とあっさりとした終わり方だったが、架川・蓮見・水木の絡みは絶妙で、(演出のクセや“わかる人にわかる”ネタの方向性など、好みが分かれる部分もあるだろうが)個人的にはコメディとして楽しく観ることができた。ただ、コメディとして呑気に観ていると、物語の背景にある事件の複雑な人間関係に付いていけなくなるという問題にぶつかり、「シリアスとコメディーが絶妙なスピード感でからみあう刑事ドラマ」としてなかなか視聴態度が難しい作品だったように思える。

 ちなみに、本記事はGP帯ドラマを扱う趣旨ではあるが、「ドラマ序盤ランキング」で深夜帯の『リエゾン-こどものこころ診療所-』と『三千円の使いかた』に言及していたので触れておくと、どちらも期待どおりの良作だった。特に『リエゾン』は、序盤ランキングでも述べたように原作からの脚色が見事。ひとつひとつのエピソードを丁寧に描くため、観ていて辛い話も少なくなかったが(原作2巻の虐待の話が映像化されていたら、辛すぎて観ていられなかったかもしれない)、今期一番泣かされた作品だった。

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