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今週の『金曜ロードショー』を楽しむための基礎知識57

『ルパン三世 VS複製人間』が劇場版シリーズの大傑作となったこれだけの理由

『ルパン三世 VS複製人間』が劇場版シリーズの最高傑作となったこれだけの理由の画像1
金曜ロードショー『ルパン三世 ルパンVS複製人間』日本テレビ 公式サイトより

 大型連休を控えた日本テレビ系『金曜ロードショー』は、2週連続で国民的人気アニメ『ルパン三世』劇場版シリーズを放送。1週目は1978年公開の劇場版第一作『ルパン三世 ルパンVS複製人間』だ。

『VS複製人間』といえばマモー。そう、あの『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』(フジテレビ系)のマモー・ミモーの元ネタです、っていってもZ世代にはわからないか!

『VS複製人間』は当時テレビで放送されていた『ルパン三世』の第2シリーズが高視聴率を叩きだしており、その人気を受けての劇場版製作であった。

 以前に作られた第1テレビシリーズは低視聴率のため、当初の予定期間を短縮して放送終了に。しかし再放送で視聴率を稼いだので、第2シリーズが始まった。第1シリーズは大人向けのハードボイルドタッチが受け入れられず、後半はギャグテイストを増やして方向転換を図り、ある程度視聴率が上向きになっていたことから、第2シリーズではこの路線を継承して大衆向けエンターテイメントに徹したことで人気となっていた。

 だがスタッフの間ではお茶の間(これもすでに死語ですね)向けの演出ばかりで不満が溜まっており、第1シリーズのような大人向けの作風に戻してみようという意図の元、制作がスタートする。

 それは開幕直後のシーンを観ればわかる。13階段を上った男が絞首刑にされる。その姿はルパンだ。主人公のルパンが死ぬところから物語は始まる!

 永遠の宿敵であるルパンが死んだことを信じられない銭形警部は埋葬地の城に行き、自らルパンに止めを刺そうとする。突然、遺体は大爆発を起こし、死んだはずのルパンが姿を現す。処刑されたのは偽物だというルパンはその場を脱出。

 その頃、不二子は裸でベッドに寝ており、目を覚ますためにシャワーを浴び、自慢のプロポーションを堂々と晒す。

 この冒頭のシーンは不穏な空気を漂わせつつ、対象年齢をぐっと上昇させたアダルトなムードに包まれている。エンターテイメント路線と大人向けのハードボイルドタッチ、両方を盛り込んだ、只者ではない感のあるオープニングに痺れる。

 ルパンは不二子の依頼でピラミッドから「賢者の石」と呼ばれるお宝を盗み出す。下心丸出しの態度で接したルパンを不二子はすげなく扱って、「賢者の石」を奪って立ち去る。「ある男」の依頼で不二子はルパンに宝を集めさせていた。それは不老不死に関する宝だったが、不二子が持ち去ったのはルパンが用意した偽物。

「ある男」の怒りをかったルパンたちは町中で武装ヘリに襲われるなど、命の危険に晒される。隠れアジトまで跡形もなく吹き飛ばされてしまう。あんな女を信用するからだと次元や五ェ門は愛想を尽かして袂を分かつ。

 ルパンは「ある男」の元から逃げてきた不二子と行動を共にするが、やはり裏切られて連れ去られる。

「ある男」の正体は世界の富の三分の一を支配する大富豪ハワード・ロックウッド。それは表向きの名前で、正体はクローン技術によって1万年もの間生き続けてきた怪人マモー。米ソ両大国を脅せるほどの力を持ち、歴史の影に暗躍してきたマモーは「賢者の石」によって本当の永遠の命を手に入れようと画策する。

 劇場版一作目にしてシリーズ屈指の悪役と名高いマモー。マモーはとにかく不気味。小柄で子供のような外見だが、尊大な態度で自らを「神」と呼んで憚らない。

 声を演じた西村晃は、筆者の世代では二代目・水戸黄門として知られた俳優だが、50年代に映画デビューしたころは悪役俳優として名高かった。当時を思わせる妖艶なセリフ回しは独特の色気があり、アニメのキャラクターにしては異質すぎた。大正生まれの西村は「仮装パーティー」というセリフを「仮装パーテー」と発音しちゃうが、そんな時代劇調の演技ですらも味がある。当時はもちろん、現代でも印象に残る稀代の悪役キャラだ。

 演技も必見だが、キャラクターの設定としても、マモーは時代を先駆けている。

 クローン技術で生まれた生命といっても現代では珍しくもなかろうが、78年はイギリスで初の体外受精児が誕生しており、映画のネタとして取り上げるにしても早すぎる(クローンを作るシーンに顕微授精の映像が採用されている)。

 クローンによるコピーを繰り返してもそのたびに遺伝子が欠損して完全なコピーは生まれない(配下には「不良品」と呼ばれる不完全なクローンが多数存在する)という点に触れているのも、当時としては珍しい。

 ルパン三世シリーズ初の映画化にして時代を突き抜けた作風もあって、制作費5億円に対して配給収入は約10億円。ということは配給収入はおよそ20億円、制作費の4倍稼いでいる。このヒットで翌年二作目(『カリオストロの城』)が作られ、劇場版ルパンはシリーズ化していき、令和の時代に入っても新作が作られている息の長い作品になった。

 さぞスタッフは得意満面かと思いきや、監督を務めた吉川惣司は「公開当時、褒めてくれた人はほとんどいなくて敗北感でいっぱい」と振り返る。

 90年代末から『金曜ロードショー』の放送で20%近い視聴率を記録し、同番組で何度も繰り返し放送される定番作品になったのに? 監督としては忸怩たる思いがあるのだろうか。

 監督がそう思っていても、やはり『VS複製人間』は傑作だ。初期の路線を復活させたり、時代を先取りした設定も良いが、ルパン、次元、五ェ門といった仲間たちの繋がりがより印象的になっている点が良い。

 劇中、ルパンが不二子に入れあげたせいで、さんざんな目に遇った二人は彼女と縁を切れと迫る。挙句に次元と五ェ門が一触即発の事態に。三人はそれぞれの道を行くことになるのだが、結局はまた元の鞘に戻ってくる。

 ルパン、次元、五ェ門たちと不二子の関係って男同志の仲良しグループに不二子という女が関わってくることで、ヒビが入っていくよう。次元と五ェ門が縁を切れ、あんな女は信用するな、と不機嫌そうにするのは友達のルパンを取られて不貞腐れているみたいに見える!

 ブロマンスという、男同士の親密な関係、友情を描くジャンルがあるが、『ルパン三世』シリーズはある意味ルパン、次元、五ェ門のブロマンス的要素があると言える。

 その要素がぐっと強調されるのが、後半の場面だ。

 世界の権力者に圧力をかけ、科学兵器で地震を起こし、念動力すら使える神にも等しいマモーにはかなわないと匙を投げる次元に、それでも不二子を助けにいくというルパン。

「来ねえのか?」
「ああ、いかねえ」
「いいよ。信心深い奴には向かねえ仕事だ」

 その場を立ち去ろうとするルパン。その背中を追う次元が威嚇射撃で足元の空き缶を撃ちぬく。

「いくな!ルパン!」

 力の限り叫ぶ次元。だがルパンは振り返ってつぶやく。

「俺は、夢ぇ盗まれたからな……取返しに行く」
「夢ってのは女のことか?」
「実際クラシックだよ、お前ってやつぁ」

 そのまま歩き去るルパン。

 このシーンは劇場版ルパン三世シリーズで1、2を争う男泣きの名場面!

 吉川監督がいくら評価されなかったと思おうが、ルパンと仲間たちの関係をより深く、強く印象付けてくれた『VS複製人間』は間違いなく傑作だ。

 自分のプライドと女への愛のために戦ったルパンも最後にはあっさり不二子に袖にされちゃうんだけど!
 でも不二子とルパンがいつまでもくっつかないのって、そうなるとシリーズが終わっちゃうからなんだろうけど、やっぱりブロマンス的要素があるからだよ!

 

 

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/04/28 19:00
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