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今週の『金曜ロードショー』を楽しむための基礎知識53

『プーと大人になった僕』大人こそ胸を打つ、癒しのドラマ

『プーと大人になった僕』大人こそ胸を打つ、癒しのドラマの画像1
金曜ロードショー『プーと大人になった僕』日本テレビ 公式サイトより

 イギリスの児童作家A・A・ミルンが1926年に発表して以来、世界中の人々を癒し続けている児童小説『クマのプーさん』シリーズを初めて実写化した『プーと大人になった僕』が日本テレビ系『金曜ロードショー』に登場です。

 ディズニーアニメの『くまのプーさん』シリーズは有名ですが、今回の『プーと大人になった僕』は、「100エーカーの森」で暮らすプーさんやティガー、イーヨー、ピグレットといった森の仲間たちと離れ離れになった少年クリストファー・ロビンが、やがて大人になり、社会のさまざまな軋轢に苦しみ、純粋だった少年時代のことを忘れていってしまう……という人生のドラマなのだった!

 クリストファー・ロビンは100エーカーの森で、くまのプーさんをはじめ森の仲間たちと暮らす少年時代を送っていたが、父の取り計らいによって寄宿学校に入らなくてはならなかったため、森の仲間たちと別れることに。お別れパーティーの日に「お互いのことを一生忘れない」と誓って、クリストファーは旅立つ。

 寄宿学校での厳しい生活、父親との死別、第二次世界大戦の出兵、就職、妻となるイヴリンとの出会い、娘・マデリンの誕生といった日々の中でクリストファーは100エーカーの森の仲間たちのことを忘れていった。「100歳になっても忘れない」といった約束は、守られることがなかったのだ。

 クリストファーは会社で鞄をつくる部門に所属していたが、業績不振もあって社員を大量に解雇しなければならなくなっていた。上司である社長の息子、ジャイルズから「業績が上がらないなら、会社に不必要な人間のリストをつくれ」と、リストラを任される。クリストファーは家族と旅行に行く約束をしていたのに、泣く泣く週末をリスト作りに費やす。仕事にかまけて家族との仲も最悪な状態、ひとり自宅で仕事をしていると、そこにプーさんが現れた! 昔とまったく変わらぬ姿で。

 100エーカーの森では、プーさん以外の仲間たちがいなくなったため、プーさんは「クリストファー・ロビンならなんとかしてくれるはず」(そんな適当な)と、彼が移動に使っていた魔法の扉を通り、森のあるサセックスから遠く離れたロンドンまでやってきたのだ。

 少年時代の約束を果たせず、プーたちのことをすっかり忘れていたクリストファーは罪悪感に塗れるが、それはともかく仕事をしないといけないんだ! 仕事の邪魔をしないでくれと言われたプーさんは

「それは、今しなくちゃいけないことなの?」

と無邪気に痛いところを突いてくる。そりゃあクリストファーだってリストラなんかしたくない。でも会社のためには仕方ないんだよ……。

 自宅に泊めたのはいいものの、プーは家の中をはちみつだらけにし、メチャクチャに荒らしてしまう。これじゃ仕事にならないよ! クリストファーは仕事を中断して、プーを100エーカーの森に返そうと列車に乗る。

 何にでも興味を持って目を輝かせるプーは、列車に乗せるのも一苦労。風船を欲しがって「風船なんか何に使うんだ?」と聞くと「何にも使わないけど、持っているだけで幸せになれるよ」というので買ってやると勝手にあちこちを歩き出して、子供に拾われる。「これは僕のだ! 大人からクマを奪うなんでひどいじゃないか!」などとプーを取り返すクリストファーだが、大人が子供からぬいぐるみを奪ってるようにしか見えない。

 サセックスにたどり着いたクリストファーは、かつて自分が過ごした家で寂しそうに休暇を過ごしている妻子にバレないにように、こそこそと移動する。

 プーが家にいるのは誰と聞くので、僕の妻と娘だ。娘は僕のすべてなんだと返すと

「じゃあ、なんで一緒にいないの?」

と、またまた痛いところを突いてくるのだった。プーはぼんやりしているのに、いちいち言うことが鋭い!

 なんとかプーを家まで送り届けるも、森の仲間たちは見つからない。プーにコンパスを渡すが、プーはコンパスを見ないで、地面にできた自分たちの足跡を追って歩き続ける。それじゃぐるぐる回るだけだよ!

 会社に帰ろうとするクリストファーにまたも、プーは痛烈な一言を突き付ける。

「それは風船より大切なことなの?」

 ついにはプーを見失い、森に取り残されるクリストファー。彼は今、会社でやりたくもない仕事を押し付けられ、僕のすべてだったはずの娘や妻を放り出している。自分のやっていることが正しいかどうかもわからないから、迷い続ける。コンパスを持ってたって、目的地にはたどり着けない。

 やがてクリストファーは、行方知れずだったイーヨーら仲間たちと再会する。大人になってしまった彼を見ても、仲間たちは気づかない(プーにはクリストファーのことがすぐわかったのに!)。

 だから彼は森の仲間たちが恐れる怪物たち、ヒイタチやズオーと戦ってみせる。それはクリストファーが想像の中だけで生み出した架空の魔物だが、少年時代のクリストファーは想像力豊かだった。大人になることで失った少年時代を取り戻そうとする中で見事、魔物をやっつけ、森の仲間たちと交わした約束「100歳になっても忘れない」を果たし、再びプーと再会するも大切な仕事のためにロンドンへ。

 しかしティガーがいたずらで、鞄の書類を別のものと入れ替えてしまっていた!

プーたちはロンドンに戻って書類を返そうとする途中で、マデリンに見つかってしまう。父が昔、描いた絵にそっくりだったことから、「くまのプーさん」は真実だったことを知る。

 鞄に書類がないことに気づいたクリストファーは、マデリンとプーたちが書類を持ってロンドンに来ていることを知る。会議を中断させて外へ飛び出しながら、「本当に大切なものは会社の仕事なんかじゃなくて、家族なんだ」ということにようやく気が付く。それを教えてくれたのは少年時代の仲間、プーたちだ。

 人は誰しも大人になっていく過程で、社会に適応するために失われていくものがある。クリストファーの場合、それは豊かだった想像力だ。少年のころはクマとだって話せた。存在しない怪物とも戦えた。

「何もしないことは、最高の何かにつながる」

とプーはいうけど、大人になったら何もしないわけにいかない。腹だって減るし。けれどこの映画では何もしないことが、最高の何かにつながって幕となる。

『プーと大人になった僕』は日々の生活に追われ、大切な何かを見失いかけている、大人たちの胸を打つ癒しのドラマだ。子供は可愛らしい100エーカーの森の仲間に癒され、大人は仕事を押し付けて週末はゴルフに明け暮れている上司(映画に出てくる)を見て、「うちの会社にもいるよ、こういうやつ!」と嘆くことでしょう。クリストファー・ロビンを他人とは思えない! 俺のことだよ! この映画、明らかに大人の方に突き刺さるもんね。

 ようし、僕も明日から何にもしないをしよう! と赤い風船を買ったけど、くまのプーさんというよりはスティーヴン・キングの『IT』に出てくる怖いピエロまんまだったよ……。

 

 

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

最終更新:2023/03/31 19:00

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