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『ハマのドン』松原文枝監督インタビュー

『報ステ』元プロデューサーが撮った初の劇場映画 カジノに反対する男の生き様ドキュメンタリー

菅政権が仕掛けてきた巧妙な奇策

『報ステ』元プロデューサーが撮った初の劇場映画 カジノに反対する男の生き様ドキュメンタリーの画像4
映画『ハマのドン』より

――任侠映画なら、主人公が悪い親分の屋敷に殴り込みを掛ける展開に最後はなるわけですが、『ハマのドン』では2021年8月の横浜市長選が決戦の場に。そこで菅政権は奇策を仕掛けてくる。凡庸なシナリオライターなら、思いつかないようなクライマックスです。

松原 菅総理の腹心だった小此木八郎議員(元国家公安委員長)が議員職を辞めて、横浜市長選に出馬したわけです。藤木さんは小此木氏を祖父の代から知っています。しかも、カジノリゾート案は撤回することを公約に挙げています。記者はそれを聞いて、みんな驚きました。私も「政治は何でもありだな」と思いました。すごく考え抜いた、奇策中の奇策ですよね。

――人情に弱い藤木会長のウィークポイントを狙った巧妙な裏技ですね。政界の底知れぬ不気味さを感じさせます。

松原 カジノリゾートの横浜誘致は撤回するので、藤木さんの顔は立つわけです。周囲はこれで藤木さんも妥協するだろうと思っていましたし、ご本人もかなり悩んだようです。でも、小此木氏の背後には菅総理がいることから、藤木さんは無名の新人候補を立てて横浜市長選に挑んだんです。藤木さんの闘う姿に共感して、賛同者が集まっていく様子はテレビ版では描けなかったところです。

――劇場版をつくる際に、追加取材もされたんでしょうか?

松原 カジノ設計者の村尾武洋さんは追加取材です。村尾さんを訪ねて米国までお伺いしたところ、カジノの内情を微に入り細に入り、とても詳しく語っていただけました。カジノがギャンブル依存症者を出すことを藤木さんに教えた自民党の元長老議員・斎藤文夫さんへのインタビューなども追加取材です。ナレーションをお願いしたリリー・フランキーさんにも、改めて吹き込んでもらいました。私の書いたナレーション原稿に不備があったからなんですが、怒ることなくリリーさんは再録に応じてくれました。とても優しい方です(笑)。

――藤木会長は「横浜エフエム」の代表取締会長でもある。「横浜エフエム」では消費者金融のCMはいっさい流さないという藤木会長のこだわりは、テレビでは放映できないシーンですね。

松原 実は私は深く考えずに、藤木会長がなぜカジノに反対しているのかを伝えるために、必要なエピソードだと思い、テレビ版にも入れようと思っていたんです。でも、テレビ版は放送時間に入りきらず、見送りました。それもあって劇場版に入れたんですが、周囲から「テレビ版だったら難しかっただろうね」と指摘され、それで初めて気づいたんです(苦笑)。確かにテレビでは問題になったシーンかもしれません。

政治家とマスメディアとの関係性について

――『報道ステーション』時代についてもお聞きしてよいでしょうか。松原さんは第二次安倍政権時代にあたる2012年から2015年3月まで、同番組のチーフプロデューサーを務めました。チーフプロデューサー職から離れる際には、「自民党の圧力だ」「テレビ朝日が自主規制した」と騒がれましたが、ご本人はどう受け止めていたのでしょうか?

松原 確かに急な人事で、驚きました。でも、自民党の圧力で異動になったとは思っていません。2014年に自民党から抗議文書が届いたりはしましたが、局の上からは「そのままの報道姿勢でいい」と言われていたんです。政治家はメディアをコントロールしたがるものです。これは自民党に限らず、民主党時代もそうでした。もし、ニュース内容に間違いがあれば、早急に対応しますが、それは視聴者に対して当然のことです。間違った報道でなければ、突っぱねればいいんです。そこで相手を怖がって対応してしまうと、ますます相手は言ってくるようになるんです。毅然とした態度でいることが大切だと思います。

――2015年1月には『報道ステーション』のコメンテーターだった古賀茂明氏が「I am not ABE」というフリップを生放送中に出していますが、あの時は事前に松原さんに相談などはあったんでしょうか?

松原 相談はなかったですし、まったく予測していませんでした。元経済産業省の官僚だった古賀さんは先見性のある方なので、私も、古舘プロダクションから来ているプロデューサーも評価していました。ひとつの法案が通ると、その後どんなことが起きるのか。古賀さんは法律の草案をつくる立場だったので、法律の落とし穴や法文に込められた意図を的確に解説ができる人だったんです。

――権力者の言動は、想像以上に影響が及ぶように感じます。

松原 政治家と報道の関係だけでなく、それはいろんな業界にも言えることでしょうね。上の立場の人間が圧力を感じて動揺すると、その下で働いているスタッフたちも忖度するようになるので、そこは気をつけたいところです。権力者に対しても、毅然とした態度を貫く。藤木さんのそんな勇敢さに触れ、多くの人たちが藤木さんに賛同して横浜市長選では行動したわけです。藤木さんの勇気を見習いたいという気持ちから、私も取材をしていたのかもしれません。

『ハマのドン』
監督/松原文枝 プロデューサー/江口英明(テレビ朝日)、雪竹弘一(民教協)
ナレーション/リリー・フランキー 製作/テレビ朝日
配給/太秦 5月5日(金)より新宿ピカデリー、渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー
©テレビ朝日
hama-don.jp

『報ステ』元プロデューサーが撮った初の劇場映画 カジノに反対する男の生き様ドキュメンタリーの画像5
松原文枝(まつばら・ふみえ)
1991年にテレビ朝日入社。92年より政治部・経済部記者に。『ニュースステーション』『報道ステーション』のディレクターを経て、チーフプロデューサーに。2015年に報道局経済部長、2019年よりビジネスプロデュース局イベント戦略担当部長を務める。2016年に『報ステ』で放送された「独ワイマール憲法の教訓」はギャラクシー賞テレビ部門大賞、2019年に放送されたテレメンタリー『史実を刻む~語り継ぐ“戦争と性暴力”~』はアメリカ国際フィルム・ビデオ祭銀賞を受賞している。

最終更新:2023/05/03 19:00
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