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オトナの「J春映画」レビュー#3

HiHi Jets井上瑞稀『おとななじみ』Z世代の恋愛をBBA目線で堪能する!

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イラスト/二平瑞樹

 若手ジャニーズタレントと恋に落ちる、メインターゲット=中高生の恋愛映画ーー俗にいう「キラキラ青春映画」を侮るなかれ。オトナのあなたにこそ、ぜひ観てほしいのです。この連載では、ジャニーズ青春映画、略して“J春映画”の魅力を全力でお伝えしていきます。

 酸いも甘いも噛み分けたオトナだからこそ、俯瞰してピュアな恋愛模様に酔えるというもの。忘れていた胸キュンに癒され、憂いはふっ飛び、きらめく多幸感が全身に満ちていく……そんなめくるめく映画体験をご一緒に!

ハルを巧みに演じるHiHi Jets井上瑞稀さん

  “Z世代”って、ぶっちゃけどのくらいの若者を指すのでしょうか。

 こっそり「Z世代 何歳」とスマホに訊いたことのあるBBA(※Beautiful Brilliant Age)は、私だけじゃないはず。

 それによると、大体「1990年代半ば~2000年代の生まれで、15歳~28歳くらいの人」なのだそう。

 「おとななじみ」の主人公・青山春(通称ハル)と加賀屋楓は、まさにZ世代ど真ん中のカップルです。ハルを演じる井上瑞稀さん(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、楓役の久間田琳加さんはともに22歳と、これまたどストライクなキャスティング。

 本映画は現代の若者の生態をビビッドに見せ、同世代には愛すべきムズキュンを、BBA世代には“大人としてあるべき姿”を示してくれる、気の利いたJ春映画です。

 ハルと楓は4歳のときから隣に住む“おさななじみ”。

 楓はハルが好きなのですが、鈍感なハルは彼女の気持ちに気づきません。

 大人になってもハルの世話を焼いてきた楓は、もはや“オカン”のような存在になり、進展しない関係に悩みます。

 ハルと共通の友人・美桜(浅川梨奈さん)にはもう彼を諦めるよう勧められ、そんな折、楓は友人のエリート・伊織(萩原利久さん)に思いを告げられます。

 (実は)ずっと楓を好きだったハルは焦りますが、付き合いが長すぎて“おとななじみ”になった今、どう切り出したらいいかわからず……。

 正直に言うと、最初はふたりがあまりにもウジウジ、モジモジしているので「もういい加減はっきりしてどっちからでもいいから告って今すぐ!」と思ってしまったのです。

 けれど、物語が進むにつれ「ああそうだったのか」と彼らの気持ちがわかり、いつの間にかエールを送っている自分に気がつきました。さらには、ふたりを囲む大人たちから多くの学びも得られたのです。これってZ世代と大人をつなぐ、すばらしい映画じゃあないの!

 たとえば、私がハルと楓を見て気づいたのはこんなところです

●自己評価が低く、自分のよさに気づいていない

 ハルは同僚にセクハラをしていた上司を投げ飛ばしたことで、会社をクビになりました。みなまで言えばいいものを、「クビになった」としか言わなかったので、楓にも「だらしがないからだ」とがっかりされてしまいます。

 また、弁当店で働く楓は、ごく自然にライバル店の商品を食べ比べ、改善点を探していました。けれど、自分ではその行動力や洞察力の鋭さに気づいていません。

 おそらく、ハルも楓も「当たり前のことをしただけ」と思っていて、自分の美点を知らないのです。人に褒められるような能力などないと認識しているから自信もなく、それゆえ告白もできない。もどかしさに悩むハルの姿は、まるで幼子のようです。強がっては落ち込むハルの繊細さを、HiHi Jets井上瑞稀さんが巧みに演じています。

●ピュアさが枷(かせ)になっている

 ハルは亡くなった楓の母と「楓は自分が守る」と約束していました。純粋さゆえその解釈をアップデートできず、「楓を守るべき存在が、彼女の恋人になるのは許されない」と決めつけ、苦しんでいたのです。「恋人になって彼女を守ろう」と切り替えればいいだけなのに、なかなかそれができず懊悩するハル。子どものころの約束を大切に守り続ける潔癖さに、そっと方向転換の後押しをしたくなります。

●言わないで、自分の気持ちを察してほしい

 楓は子どものころからハルに好意を表明していますが、まったく伝わっていません。ハルにしても、好きじゃなきゃこんな親密な距離感はありえないよね、というくらいなのに楓は気づきません。関係を見直して静かな水面に石を投げるのは、よほど怖いのでしょう。バランスを崩すことは最大の恐怖だという思いが、ふたりを受け身にしているようです。思わず「そんなに怯えないで!」と言ってあげたくなります。

 ハルと楓の友人・伊織と美桜は、どちらも仕事で成功し、社会的に認められています。

 伊織は堂々と楓に告白し、美桜も思いのままにオトナの恋愛を愉しんでいます。

 世の中に評価されているふたりに比べ、“ちゃんとしてない”うしろめたさが、ハルと楓に二の足を踏ませるのでしょう。

 けれど、誰かがピンチに陥ったとき躊躇なく行動できるハルの凜々しさ、邪心のない優しさは、数値化できない魅力をもって人の心を揺さぶります。

 そのカッコよさと、伊織のスマートさに打ちのめされる顔、また、楓の愛らしさに身もだえする顔……くるくる変わるハルの表情を自在に使い分ける井上さんに、役者としての果てしない可能性を感じました。

 なかでも、ハルが色っぽい立花さん(岡本夏美さん)に迫られるシーンは秀逸。等身大のウブな男子そのままに、ベビーフェイスであわあわする井上さんは可愛すぎて母性本能……いや、BBA本能をズキュンと射貫かれました。

ナイスBBAたちの映画としても秀逸

 と、まあ危なっかしくてハラハラするハルと楓ですが、実はよき大人たちがそばにいます。
 それは行きつけのカフェのオーナー・蝶子(アン ミカさん)や、カフェの常連のおばあちゃん・トメさん(松金よね子さん)、楓の上司・荻窪さん(宍戸美和公さん)といった、ナイスBBAたち。

 彼女たちは人生の先輩らしく俯瞰したまなざしで、若者たちの往く道を優しく照らします。正当に評価し、チャンスを与え、ときには見守ってくれていたのです。彼女らの振る舞いはもちろん、個性あふれる装いも本作の注目すべきポイント。

 私たちBBAも、彼女たちの姿勢を見習ってかっこよく年を重ねていきたいものです。

 なかでも私は、荻窪さんの見事な脚線美とチャレンジ精神に惹かれました。

 なかなか交わらないZ世代と大人世代のスクランブル交差点のような「おとななじみ」。「若い子の考えてることなんてわからん」と切り捨てず、異世界探訪のような気分で覗いてみてはいかがでしょうか。

 在りし日の自分を見るような、懐かしくいとおしい気持ちになれますよ。

 

みきーる(文筆家、女子マインド学研究家)

文筆家、女子マインド学研究家。メンタルケアカウンセラーⓇ。 大人世代のヲタクを〝BBAヲタ=Beautiful Brilliant Age=「美しく輝く世代」〟と定義し、明るく前向きな推し活を提案する。応援歴30年超のジャニーズファンでもあり、現在はアイドル、推し事、恋愛や女性の悩みをテーマに執筆活動を続けている。著書に『「戦力外女子」の生きる道』(ワニ・プラス)、『ジャニヲタあるある』、『ひみつのジャニヲタ』(共に青春出版社)、『大人のSMAP論』(速水健朗氏・戸部田誠氏と共著・宝島社)等がある。

みきーる

最終更新:2023/06/12 19:00
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