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税収過去最高70兆円を超えでも生活は不安…物価上昇はいつまで続くか

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 企業の多くでは賃上げが行われているが、それでも物価上昇が続いているため、実質賃金は減少を続けており、“景気の良さ”はまったく実感できない。では、物価上昇はいつまで続くのか。筆者は、少なくとも2023年末までは、前年同月比3%を超える消費者物価の上昇が続くと見ている。

 22年度の国の税収が70兆円を超え、3年連続で過去最高を更新する。これは、新型コロナウイルス禍からの企業業績の回復による法人税収の増加、賃上げによる所得税収の増加、物価上昇に伴う消費税収の増加によるところが大きい。

 一方で、個人の所得は賃上げが実施されても、物価上昇に所得増加が追い付かず、物価上昇の影響を除いた実質賃金は22年4月以降、13カ月連続で前年同月比での減少が続いている。

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 物価上昇にはさまざまな要因がある。詳細な説明は割愛するが、物価を押し上げる大きな要因の1つとなったのが輸入物価の上昇だ。資源を中心に原材料のほとんどを輸入に頼る日本では、輸入物価の上昇が消費者物価の上昇につながる。

 国内企業物価指数(旧卸売物価指数)は輸出物価と輸入物価から構成されており、このうち輸入物価を見ると、円ベースの輸入物価指数は21年2月まで前年同月比で下落していたが、3月から上昇に転じる。その後、輸入物価は上昇力を強め、22年7月には前年同月比49.2%の上昇でピークを迎えた。

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 輸入物価上昇の影響を受け、国内企業物価指数も21年2月までは前年同月比で下落していたものの、3月から上昇に転じ、その後、22年12月に前年同月比10.6%の上昇でピークを迎えた。

 ところが、資源や原材料価格が上昇し、それが輸入物価の上昇を通して国内企業物価指数に反映され、さらに製品価格に反映されて、消費者物価指数が上昇するまでには、多くのタイムラグがある。

 たとえば、ガソリンのように原油の輸入とガソリンの販売を同じ業者が行っている場合には、原油価格の上昇がガソリン販売価格に転嫁されるスピードは速い。だが、多く場合、原材料を輸入する商社などと、製品を製造販売するメーカーは別だ。このため、原材料価格の上昇が製品価格に転嫁されるまでにはタイムラグが発生する。

 加えて、メーカーは原材料価格が上昇しても、売上減への影響などを懸念して、企業努力で製品価格の値上げを極力遅らせるため、価格転嫁へのタイムラグは拡大する。

 国内企業物価と消費者物価の関係を見ると、天候などにより変動幅の大きい生鮮食品を除く、消費者物価総合指数(以下、コアCPI)が前年同月比で上昇に転じたのは、国内企業物価指数が上昇に転じた21年3月から約半年後の21年9月だ。

 直近23年5月のコアCPIは前年同月比3.2%の上昇となった。4月の3.4%の上昇に比べ0.2ポイント低下した。国内企業物価は23年1月から低下に転じ、5月まで5か月連続で低下している。コアCPIも23年1月に前年同月比4.2%上昇でピークを付けている。

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 確かに、物価上昇の大きな要因の1つだった石油・石炭・天然ガスの円ベースの輸入物価指数は、前年同月比で21年3月から上昇に転じ、21年11月に132.8%上昇という大幅な上昇でピークを付けた後、23年4月には前年同月比で下落に転じた。

 消費者物価指数の中のエネルギー指数も、21年4月に前年同月比で上昇に転じ、22年3月には同20.8%上昇でピークを付けた後、23年2月には前年同月比下落に転じている。

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 日銀は物価の見通しについて、これまで数回の見直しを行い、現在は「物価を押し上げてきた海外要因の剥落を受け、今年度半ばにかけてコアCPIは前年同月比2%を下回る」としている。では、物価は低下基調に転換したのだろうか。筆者の答えは否だ。

 まず、5月のコアCPIの低下は、エネルギー関連の下落が大きい。実際に、生鮮食品及びエネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)は4.3%(4月は4.1%)と12カ月連続で上昇が続いている。

 何よりも、すでに物価上昇要因の1つだった輸入物価が下落に転じ、これまでに数々の値上げが行われてきていても、前述したように原材料価格上昇の製品価格への転嫁にはタイムラグがあるため、たとえば電気料金のように6月に入っても値上げが続いており、中には再値上げまで行う製品がある。

 さらに、ガソリン補助金の縮小により、今後はガソリン価格の上昇が見込まれるため、エネルギー関連の物価指数の低下は見込めないだろう。

 輸入物価の上昇と同じく、物価上昇の大きな要因の1つに為替円安の進行があるが、国内企業物価指数、特に石油・石炭・天然ガスの円ベースの指数や輸入物価指数の上昇は、見事なまでに円安進行とリンクしている。

 21年1月に1ドル=110円割れの水準だった為替相場は、その後の円安進行で22年10月17日に1ドル=152円直前まで円安が進行した。その後、23年1月16日には1ドル=127円台前半まで円高に振れた。

 円安がいかに輸入物価の押し上げ要因となり、円高方向に動いたことが輸入物価の低下要員になったのかは、明らかだろう。

 その為替相場は、23年1月に1ドル=127円台だったが、再び円安に進んでおり、6月29日現在で1ドル=144円台まで円安が進行している。この円安進行は、輸入物価の押し上げ要因になりかねない。

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 内閣府の短期日本経済マクロ計量モデルでは、10%の円安進行は1年間で0.15%程度の物価押上げ要因になるとしている。23年初には1ドル=132円程度だったので、現状の1ドル=144円台は10%程度の円安進行に近い水準になる。

 さらに、物価上昇に対して企業の賃上げが相次いでいるが、この賃上げもまた、今後の物価上昇要因になる可能性がある。それは、賃上げによる人件費の上昇を製品価格に転嫁するためだ。特に、原材料価格の上昇を製品価格に転嫁することのできる業種と違い、サービス分野では値上げが遅れる。こうしたサービス分野の値上げは、これから本格化を迎え、消費者物価の押し上げ要因になるだろう。

 コアCPIと消費者物価指数の中のサービス指数の動きをみると、コアCPIは21年9月に前年同月比で上昇に転じ、23年1月にピークを付けているが、サービス指数が上昇に転じたのは、コアCPIが上昇に転じた約1年後の22年8月で、その後も10か月連続で上昇を続けており、サービス分野の値上げが遅れていることは明かだ。

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 日銀の植田和男総裁は6月16日の記者会見で「物価上昇率の低下は思ったよりも遅い」と述べている。だが、物価はまだまだ上昇が続くというのが正しい。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2023/07/01 20:00
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